[バスの中] 帰りの送迎バス。心地よい揺れに体を預けながらも、私たちの心はすっかり擦り切れていた。 私「……あの日も最悪。今日も最悪ー。きっと明日も最悪さー……」 私は、自分たちで即興で作った絶望の歌(?)を、掠れた声で口ずさむ。 遥「……もちろんいつでも最悪さー。筋肉痛がやってくるー……」 隣ではるちゃんが、半泣きになりながらハモってくる。私たちは顔を見合わせ、力なく笑った。 こんなにヘトヘトなのに、遥ちゃんと一緒だと、 ほんの少しだけ心が軽くなる気がした。 バスの運転手「はい、着いたよ。お疲れさん」 バスの運転手さんの低い声が響く。 私は窓の外を見て、パッと顔を上げた。 私「あ! はるちゃん、着いたよ! 行こう!」 遥「うん!」 私たちは重い足取りでバスを降りる。私は最後に、 運転席のおじさんに向かって手を振った。 私「またね、おじさん!」 バスの運転手「ああ、またな。気をつけて帰れよ」 おじさんのぶっきらぼうだけど温かい返事を聞きながら、私たちはバスを見送った。 [横断歩道] 夕暮れ時の交差点。信号の色が青に変わる。 遥「ねっちゃん~!! 青になったよ! 行こう!!」 はるちゃんが、さっきまでの疲れを感じさせない足取りで駆け出した。 私「うん!! ちょっと待ってよ~!! 靴紐が……!」 私はしゃがみ込んで、緩んだ靴紐を必死に結び直す。 遥「もー! 先に行っちゃうからね!」 遥ちゃんの楽しそうな声と、タッタッタッという軽やかな足音が遠ざかっていく。 その直後だった。 キィィィィィッ!! ガッシャアァァン!! 鼓膜を突き刺すような急ブレーキの音と、何かが激しくぶつかる鈍い音。 私「……え?」 顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、夕日に照らされたアスファルトの上に広がる、信じられない光景だった。 そこには、原型を留めないほどぐちゃぐちゃになった何かと、嫌なほど鮮やかな赤黒い液体が広がっていた。 さっきまで隣で笑っていた、大好きなはるちゃんが。 私の目の前で、一瞬にして。 私(なんで。……どうして?) 足の震えが止まらない。喉の奥が熱いのに、声が出ない。 私(私が……私があの時、先に走っていれば……。どうして、私じゃなかったの……?) 夕闇が迫る街の中で、私の絶望的な問いに答えてくれる者は誰もいなかった。 はるちゃんがいなくなってから、 私の世界は色を失った。 けれど、それと引き換えにするように、私の体は恐ろしいスピードで成長していった。 あれほど苦手だった走ることも、今では中盤までなら一位をキープできる。最後は結局、スタミナ切れで六位くらいに落ちてしまうけれど、昔のドンケツだった私とは別人だ。 柔軟だって、痛みを感じることなく楽にこなせる。サッカーも、バスケも、あんなに嫌いだったはずなのに、いつの間にかこなせるようになっていた。 ……けれど。 できることが増えるたび、私はヒトから遠ざかっていくような気がした。 他人が笑っていても、何がおかしいのかわからない。悲しんでいる子を見ても、胸が痛まない。感情というものの正体が、霧の中に消えてしまったみたいだ。 そもそも、感情って何だったっけ。 そんな空っぽな状態のまま、私は年長へと進級した。