幼い頃の、自分のようだと思った。 目の前で私に背をさすられながら泣きじゃくる少女。 彼女の見ている世界は、きっと―― ――幼い頃私が思い込んでいた世界と同じだったから。 *** 私が時折遊び相手になっていたその子は、友達にひどいことを言ってしまって、両親にこっ酷く叱られたらしい。 思わず家を飛び出して、宛もなく歩いていたときに私を見つけた、そうしゃくり上げながら少女は言った。 私は自販機で買った水を差し出した。 「お水、飲める? どこかに座ろう」 こくん、と頷いた少女と手を繋ぎながら近くの公園へ向かった。 住宅街の中にあるこの公園は遊具が少なく、他に子どもはいなかった。 しばらく背をさすっていると、落ち着いたのか、少女が小さく息をついた。 そして、ぽつりと口を開いた。 「みんなね、ニセモノなの」 『ニセモノ』 その一言に私は目を見開いた。 「みんな、お芝居してるの。私の前で演じてるだけなの」 その言葉を、私は聞いたことがある気がした。 いや、違う。 ――私は、同じことを思ったことがある。 ――『きっと、みんなこの世界を舞台に演じてるだけなんだろうなあ』 そう、思っていた。 ずっと昔、彼女ぐらいの年頃の頃。 「――そっか」 彼女の言葉に私は否定も肯定もできなかった。 だって、それは間違いとも、正しいとも言えないのだ。 「そうだよ! みんな、ともちゃんもみっくんも、ニセモノだもの!」 私も、そう思っていた。 友達も、家族も、みんな演じてるニセモノで、私だけが本物。 ――今にしてみれば、一種の「世界は自分を中心に回っている」みたいな思い込みなのだろうけど。 でも、今でも時折思ってしまう。 「――みんな、なんで演じてるのかなあ……」 そうぽつりと呟いた少女は、瞳に涙を浮かべていた。 ――演じている。 みんな、演じている。 でも、きっとそれは―― 「みんな、なりたい姿になろうとしてるんだよ」 私の言葉に少女が顔を上げた。 ハンカチで彼女の涙を拭いながら、私は続けた。 「みんな、完璧じゃないから、憧れる姿があるの。 憧れる姿になろうとして、自分を誇張して着飾って―― ――理想の姿を『演じてる』」 それが、これまで周りと過ごす上で気づいたこと。 風が吹いて乱れた少女の髪を手で整えると、少女はうつむいた。 「でも、みんなニセモノで、世界は演じてて――」 その声は震えていた。 私は、そっとその手を取った。 「そうだね、世界は演じてる」 そういうと少女はぱっと顔を上げた。 「やっぱり……!」 安堵みたいな、確信みたいな声。 だから、私は少女の手をもう両方の手で包むように握った。 「でも、忘れないで 演じてても―― ――みんな、人間なんだよ」 幼い頃、私は世界は舞台でみんなが演じていると思い込んでいた。 それは、あながち間違いでもないのだろう。 『演じている』の種類が少し違うだけで、みんな演じている。 でも、幼い私は 「どうせ演じているんだから」 そう思って相手にひどいことを言った。 でも、その時のあの子のひどく傷ついたような顔で、私は「相手も人間だ」と気づけた。 だから、私は言う。 「みんな、人間なの。 人間だから―― ――傷つく心があるんだよ」
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