6月の初めに運動会があるんだって。僕はあまり運動ができないから楽しみではないな。でも、クラスのみんなと馴染めてきたし、応援も好き(大声は苦手)だからちょっとだけ頑張ってみよう。 ある日の休み時間。更衣室で体育着に着替えていた時に、奥の方で悲鳴に近い叫び声が聞こえた。そちらに顔を向けてみると、瀕死のゴキブリ(以後『G』)が落ちていた。ジェイドくんが新聞紙を構え、Gを叩こうとしている。やめてくれ。 「アンバー。待っててくれ。今すぐこいつを処理するから。」 潰すのか?潰したら大変なことになるよ。 「えぇっと…。じぇ、ジェイドくんさぁ、何しようとしてるの?」 「ん?潰そうと?」 「やめっ…!」 体が先に動いてしまった。これが、「本能」というものなんだね。一気に周りが静まり返り、サクッ、サクッという咀嚼音が響いた。僕はGを食べてしまったらしい。やってしまった…。消えてしまいたい…!ジェイドくんがこちらを見て、 「すげぇ!!悪(G)を食らった!アンバー。君はヒーローだ!」 どっと歓声が上がる。ヒーローだ、と。少しチャイムが鳴っているような気がしたけど、気のせい、だよね?授業に15分遅れた。 運動会当日。僕は張りきっていたせいで怪我をして出られなかったよ。あー。実に残念だなー(棒)。その分応援頑張るから。徒競走、リレー、綱引き、騎馬戦、大むかで。楽しそうだなぁ。来年は、参加できるように、ちゃんと気をつけなきゃ。その後、僕の組は優勝した。 運動会は無事に終わり、ジェイドくんと一緒に帰る。 「アンバーの声、ちゃんと聞こえた。ありがとう。」 「どういたしまして。」 今、ちゃんと笑えたよね。 「ア、アンバー。」 「なに?」 「えっと…その…、やっぱ何でもない。」 ジェイドくんは顔を赤くしてうつむいた。翡翠の耳飾りが揺れる。 「またこんどでいいよ。」 ジェイドくんの返事はなかった。少しだけさみしかった。