お久しぶりでーす。 たまにまた出そうかなと!いうことで!今書いてるものを公開します。 伏線たくさん入れました〜 羽のない天使 下 https://scratch.mit.edu/projects/1308766675
【プロローグ】 君は天使などではなかった。痛みも弱さもある。それでいて、どうしても強がってしまう、ただの人間だ。 それでも俺は、君の背に羽を見ていたかった__ 【六月】 「じゃあ、三者面談の日程を配るぞ」 担任の言葉が俺の心に重くのしかかる。 「次、一瀬」 呼ばれた。俺は起立して、担任から紙を受け取る。紙には、「六月二十七日十五時半から十六時」と。それだけが書いてあった。 そして、六月二十七日。三者面談の日。 「一瀬は確か進学希望だったな」 「はい」 深く頷く。担任はそれを見て続けた。 「一瀬の学力だと、大体偏差値が六十程度の大学がいいんじゃないか?今の偏差値は五十後半だろ。なら、頑張ればいける」 現実的だ。確かにその方がいい。 「でも、俺は明ノ宮大学に行きたいんです」 「明ノ宮…確か、あそこは偏差値六十後半じゃなかったか?」 「成績を頑張れば、六十五程度でもいけます」 成績を頑張れば、大学のハードルは下がる。それを俺は使うつもりだ。 「ああ、一瀬の授業態度だと問題ないだろうが…俺は偏差値六十程度の大学がいいんじゃないかと思う」 なのに、先生は強く勧めてきた。 「親御さん、今日は仕事で来れないんだっけな。家ではなんていっていた?」 「…先生と同じく、偏差値六十程度の大学を、と」 先生は目を細める 「やっぱりな。偏差値を十あげると、入った後がキツいんだ。…一瀬、お前がやろうとしていることは危険な賭けだ。その賭博で今後の人生が左右される。悪いことは言わない。お前は安全な道をいけ」 その言葉は、経験からくる心配で…俺には重かった。曖昧に頷き、追及を逃れる。 それからは勉強方法や生活習慣などの話に移った。そして、十六時。チャイムが鳴り、騒々しい下校時間が始まる。下級生たちの笑い声。俺は独り、疎外感に耐える。三者面談をしている教室は、西日のせいで埃がひどく目立ち、担任の話もノイズの一部にしか聞こえなくなってゆく。 この日は結局、志望校は決まらないまま家へと帰った。その夜、俺は進路希望調査票を前にして固まる。 第一志望を書く欄に、 楽しそうなサークルがたくさんあり、先生と大学の雰囲気が俺にあった、明ノ宮大学を書きかけては消す。 偏差値ではない。何か、俺にない大事なものがあの大学にはあるように感じられたんだ。 消して、また書いて、また消す。 何度も何度も消しゴムに潰された文字は読めなくて、ただ筆圧が濃く残った紙は少し破れているだけ。 俺は消しては書いた紙のデコボコした感触を指先でなぞった。 【七月】 模試の判定が返ってきた。偏差値五十九。ここからあげることができるか、わからない。机に座っても集中できない。だからって外に出たとしても、耳の奥に色々な人の笑い声がこびりついていて離れない。 息が詰まる毎日が続く。 今日は休みの日。俺はなんとなく家を出て、理由もなく走って…逃げた。 坂道を登ると、街外れの古い神社がある。行ったことはないけれど、この日はなんとなく行ってみようと思った。 俺は初めて門をくぐる。そこは、驚くほど静かだった。 驚くほど静かな、境内の木陰。白髪の、俺同じくらいの身長の少年が大きな葉桜の下にたたずんでいる。 風に髪が揺れ、ふと前かがみになる。ふと、背後の木漏れ日が白い服を透かし、背中のあたりで光が爆ぜた。 それは一瞬、まるで折り畳まれた真っ白な翼が、羽ばたきの準備をしているかのように見えた。 「天使…?」 俺はそうして、固まったまま動けなくなる。 だが声をかけられるわけでもない。 少年は気づいているのか、いないのか。ただ静かに座りなおした。 俺はそのまま帰る他なかった。 数日後。 俺はなんとなくまた神社に来た。少年は、今日もベンチにすわって虚空を見つめている。 目が合った。彼は少しだけ微笑む。その時、初めて声を聞く。 「こんにちは」 鈴を転がしたような声、と俺は思った。幻想かもしれない。でも、縋りたかった。 名前を聞く。 四ツ門雪。 苗字も名前も、少し不思議な響きだった。 「俺は一瀬朔」 「一瀬くん、ですか」 彼は…雪は俺の名を復唱した。 「なあ、何もしないなんて、つまらなくないのか?」 「こうしていると、時間を感じることができるんですよ」 この時の俺には、この言葉が理解できなかった。 「あとここ、静かで落ち着くんです」 そう言って天使は笑った。どこか、含みのある笑みだった。 【八月】 俺は何度か神社へと向かった。雪は大抵いた。平日、学校帰りに寄った時も、休日逃げてきた時も。 俺たちは話をするようになった。内容は普通だ。天気の話、この神社の話、俺の学校の話。雪はよく質問をしてくる。今の授業は何をやっているのか、なぜここにくるのか。 でも、あまり自分のことは話さない。未来の話になると、「一瀬くんはきっと、前を向いて生きていけますよ」と、背中を押してくれる。 ふと、雪の学校について尋ねたことがあった。 「雪って学校は?」 二人揃ってベンチに座り、空を見上げながら話す。 「休んでいます」 「…サボり?」 立ち入っていいのかわからない、曖昧な境界線。 「そうかもしれません」 雪は冗談のように笑う。そして、黙った。突き放したわけではない。暖かく、気まずくない沈黙だった。 俺はそれ以上聞けなかった。 【九月】 俺たちの時間は穏やかにゆっくり、確実に流れた。 「進路、考えてもわからないんだよ」 ふと零れた悩みの種。 「一瀬くんは大丈夫ですよ。しっかり向き合っているでしょう?」 その言葉は、妙に説得力があった。 ベンチに並んで座り、蝉の声や風の音を聴く。いつの間にか俺の日課になっていたその行動は、ノイズを感じさせなかった。 雪はよく笑う。大きく笑うわけではない。何かを悟っているかのような静かな笑いだった。 ある日、俺はいつも通りベンチに座っていた。雪が来て少し微笑み、ベンチに座る。その頬には汗がつたい、少し息を切らしている。 「大丈夫か?」 「体力がなくて」 軽く笑った。 そして、帰る時。雪は立ち上がる時にベンチを支えにした。何気ない動作。それが俺の目についた。そっと立ち上がる。その儚い笑みが俺に向けられた。 それから、さまざまなことがわかった。わかってしまった。雪は長く歩けないこと。疲れて休むことがあること。ポケットに小さな薬ケースを隠し持っていること… この日、俺はたまたま見てしまった。雪がこっそり気づかれないようになにかを飲んでいる光景を。…それを落としてしまって、あせって広い集めている光景を。 でも、聞けない。聞けるわけがなかった。 「四ツ門って珍しい苗字だな」 ふと、思いついた疑問をそのまま口に出す。 「そうですね」 「門が四つ?」 「ええ」 少し考えてから言う。 「門って、不思議ですよね」 「どこへでもつながる。…でも、どこかを閉じてもいる」 俺は意味を考える。でもわからない。 家に帰っても俺はずっと考え続けていた。そこで気づく。 「俺が進路を決められないのは、自分で将来の門を閉じてしまうことが嫌だから…? 雪は門を自分で選べている?…もし選べてないんだったら…俺の悩みは、」 俺は、急に、今までの動悸が嘘のように静まり返った。なぜ、なんてわかりきっていた。 「…俺は最低だな、雪を安心材料にして…」 その日の夜は久しぶりに熟睡できた。できてしまった。 【十月】 後ろめたい気持ちのまま俺は再び雪と会う。 雪の笑顔に俺は責められたような気がした。 「一瀬くんは優しいですね」 「…そうでもないよ」 心に刃物が突き立てられたかのような感覚。そこで俺は神社へ行くのを止めればよかったのかもしれない。 だんだん近づく距離。帰る時間は遅くなっていく。雪も俺も、笑う回数が増えていった。…だが、一度も触れたことはない。なにせ、雪は___