カフェの平和な日常を描いた、 短編小説だよ よかったら見ていってね _______________________ 雪解け水が山肌を叩く音が、 静かなふもとの町に春の訪れを告げていた。 かつては普通の一軒家だったその建物は、 今では芳醇なコーヒーの香りを漂わせる 「cafe LAIKA」 へと姿を変えている。 「ライカ姉さん、またタバコ吸ってる。 ベストが泣きそうな顔でこっち見てるよ」 カウンターの端、 予報士のような正確さでベースが呟いた。 12歳とは思えない落ち着いたトーンだが、 その目はしっかりとライカの指先を捉えている。 「……あー、わりぃ。一本だけだ」 21歳の店長、ライカは、苦笑いしながら紫煙を消した。 右目が緑、左目が青。 村で「悪魔の子」と忌み嫌われたそのオッドアイは、 今ではこの店の「信頼の証」だ。 彼女は、かつて自分が救った三つ子の頭を順番に、 大きな手で撫で回した。 「ベース、ベリー、ベスト。 ……ほら、仕込みの時間だぞ」 その呼び方は、6年前、三人が 「ちびっこじゃ誰かわかんない!」 と猛抗議して勝ち取った、大切な絆の証だった。 かつて15歳の冬、ライカは呪われた村を夜逃げした。 雪深い山の中腹で彼女が見つけたのは、 事故で大木に突き刺さった車と、 冷たくなった両親のそばで泣きじゃくる、三つ子の姿だった。 生き残ったベリーとベース。そして、 命を落としながらも、二人のそばを離れようとせずに 漂っていた幽霊のベスト。 「……行くぞ。俺が、お前らの居場所を作ってやる」 身を寄せるあてのなかったライカは、三つ子の実家を「家」として守り抜くことを決めた。 必死にカフェでバイトをして資金を貯め、 接客のストレスでタバコを覚え、 それでも三人の笑顔のために今日まで走り続けてきた。 「いらっしゃいませー! お客様、今日はなんだかワクワクしてますね?」 扉が開くと同時に、 ベリーがハキハキとした声で出迎える。 彼女の「心を読む力」は、 客が口にする前に欲している メニューを完璧に察知する。 「ベストちゃん、そっちのテーブル、片付けお願いね」 「はーい、ねえね! まかせてー!」 享年6歳のベストが指を鳴らす。 ポルターガイストで浮かび上がった空のカップが、 魔法のようにカウンターへ運ばれていく。 それを見た初めての客が目を丸くすると、 ベースがすかさず「演出ですよ」 と鋭いツッコミを入れて、 注文される前にオレンジジュースを準備した。 「はいよ。俺特製のビターブレンドだ。 ゆっくりしていきな」 常連客の前でだけ、ライカの口調は「俺」に戻る。 「店長」でもなく「悪魔の子」でもなく、 ただの「ライカ」として笑えるこの場所。 ふと、ライカは鏡に映る自分のオッドアイを見た。 かつて絶望の象徴だったこの目は、今、自分を 「おねえちゃん」 と呼ぶ三人の未来を照らしている。 「……さて。ベース、次に来る客は何を頼む?」 「……うん。次は常連のちびっこ。 ライカ姉さんの作るホットミルクを頼んで、その後に『ライカさん、カッコいい!』って言う予定だよ」 「ははっ、そいつは楽しみだ」 ライカはまた一本、タバコに火をつけようとして、 ベストの悲しそうな顔を思い出し、 そっと箱をポケットにしまった。 悲しい過去を飲み干して、 今日も『cafe LAIKA』の扉は、 温かい陽だまりのような音を立てて開かれる。
感想ちょうだいね ♪ yama - 春を告げる