※本小説は、Geminiが執筆したものに加筆修正をしたものです。 夕暮れ時の旧校舎。かつては木造の温かみがあったであろうその場所は、今や数々の不法侵入者――近隣の不良や他校の触れ回り、果てはタチの悪い半グレの卵たちの根城へと変貌していた。ガラスは割れ、壁にはスプレーの落書きが躍る。学校側も手をこまねいていたわけではないが、治安の死角となったその空間にまともに踏み込める教師はいなかった。 ただ、ひとつの例外を除いて。 「……なぁキヨヒト。俺、今日の放課後は部室でだらだら炭酸飲料でも飲みながらレンタルしてきた映画でも見る予定だったんだけどな」 旧校舎1階、教室前の廊下の暗がりに身を潜めながら、オリバー・ジョセフ・マクミランは、ボルトアクションライフル『M24』のボルトを静かに引き、薬室に初弾を送り込んだ。金属同士が噛み合う冷たい音が、不似合いなほど手慣れた動作で響く。 「…考えるな、オリー。俺だって、今頃は来週の小テストの勉強をしてるはずだったんだ」 サバゲー部部長、永野清仁は、愛銃である『HK416』のセレクターを指先でコチリと「SEMI」へ切り替えながら、深いため息をついた。その佇まいは、およそ普通の男子高校生のものとは思えない。重心を低く保ち、視線は常に曲がり角の先を警戒している。 「俺たちゃ普通のサバゲーをしにこの部活に入ったよな?それがなんでこんなことになっちゃってるんだよ」 「さあね。少なくとも俺は、お前に付き合って入部届を出したはずだったんだが。気づけばこれだ」 彼らの所属する「サバゲー部」は、いつの間にかただの部活ではなくなっていた。警察を呼ぶには大ごとになりすぎ、教師たちも見て見ぬふりをする「旧校舎の治安維持」を、なぜか押し付けられた実戦部隊。それが彼らの現在の姿だ。 「噂ってのはどんどん独り歩きしてくな。昨日うちのクラスの奴が、『キヨヒトは本当は高校生じゃなくて、公安が送り込んだ秘密工作員だ』なんて言ってたぞ」 「俺も昼休みに『アイツ、実は中東で少年兵だったらしいぞ』なんて言われてたよ。あんまりじゃないか?俺は銃とか戦争映画とかが好きなだけの、ただのミリヲタだぞ?」 「ただのミリヲタはヒートを見ただけで射撃技術は身につかないし、メタルギアの動画を見ただけで近接格闘術ができるようにはならないよ。諦めな、伝説の傭兵」 「ちくしょう…」 「いいじゃないですかキヨヒト先輩! 先輩がたとえ元少年兵だろうが、現役の暗殺者だろうが、私は一生ついていきます!」 背後から熱烈な視線と、場違いに明るい声を投げかけてきたのは、1年生のキャサリン・アーベントロート。手にはコンパクトな『P90』が握られている。 「それに私、先輩とこうして暗闇の中で肩を並べて息を潜めてるだけで、心臓が爆発しそうです! これって実質、デートですよね!?」 彼女の入部理由は「キヨヒトに一目惚れしたから」という極めて純情(?)なものだったが、その愛の重さは少々、いや、かなり常軌を逸していた。 「キャシー、声が大きい。それにプラスチックの弾が飛び交う中でデートなんて俺はごめんだ」 「えー! 先輩に撃ち抜かれるなら私、BB弾でも本物の弾でも本望ですー!」 「ダメだこいつ…」 キヨヒトが頭を抱えたその時、床が軋むほどの重厚な足音が聞こえてきた。その先にいたのは、2年生の須藤春香。180cmはあろう長身に、10キロを超えるであろう重装備一式を平然と着こなし、手には総重量8kgを超える軽機関銃『PKM』を抱え込んでいる。その外見はどう見ても映画に出てくる重装甲兵そのものなのだが、ヘルメットのバイザーの奥にある瞳は涙で潤んでいる。 「……キ、キヨヒト先輩、やっぱり帰りませんか……? さっき、上の方から『お前らぶっ殺すぞ』って声が聞こえた気がして……私、もう怖くて、早くお家に帰りたいですぅ……」 「ハルカ、大丈夫だ。お前がそのクソ重いPKMを構えてるだけで、相手は戦車に出くわしたような顔をする。自信を持て」 「うぅ、でもぉ……!」 その中身は驚くほど繊細で、ハムスター並みの胆小さだった。プルプルと震えるハルカの肩を、キヨヒトが優しく叩いて宥める。その瞬間、全員の耳に装着されたインカムから、ノイズ混じりの陽気な声が飛び込んできた。 『ハ〜イ、アルファチームのみんな、聞こえる? 今日も空の上からおトクな情報をお届けしま〜す』 旧校舎の外、新校舎内の部室から偵察ドローンを操縦しているサイモン・ソベルからの通信だった。 『現在2階の元職員室付近にターゲットの反応あり。人数は5人。金属バットに角材、ん?あれは〜……おあつらえ向きに鉄パイプなんか持っちゃって、見るからにオツムが弱そうな不良クンたちだ』 「サイモン、通信は真面目にやってくれ」 『別にいいじゃ〜ん、アイツら拾ったエロ本回し読みしてて警戒心ゼロだし。キヨヒト、今なら背後から綺麗に奇襲かけれるよ。サバゲー部の恐ろしさを教えてあげようぜ!』 「……サバゲー部じゃなくて、もう完全にただの戦闘部隊だけどな。よし、アルファ、前進する。オリーはここでラインを確保、ハルカは俺の斜め後ろから制圧射撃の準備。キャシーはハルカのバックアップだ」 「了解」 オリーが気だるげに、しかし完璧なプロの口調で応じる。 かつては放課後に和気あいあいとBB弾を撃ち合うだけの、平和なサバゲー部だった。それがどうして、旧校舎に不法侵入して窓ガラスを割り、一般生徒をカツアゲする不良たちを「排除」するための、学校公認の治安維持組織になってしまったのか。 キヨヒトは心の中で「普通の高校生活を送りたかっただけなのに」と嘆きながら、HK416のチャージングハンドルを引き、ボルトフォワードアシストを叩く。カチャリ、と硬質な音が廊下に響いた。 「マジで誰も来ねえじゃん、この校舎。完全に俺たちの天下だな」 金属バットを肩に担いだ不良の少年が、ガハガハと下品に笑う。 彼らがこの学校の生徒を恐喝し、旧校舎にたむろするようになってから数日。誰も自分たちを止められない。そう信じ切っていた。 突如、廊下の先から「ブーーーン」という妙なプロペラ音が近づいてきた。 「…なんの音だ?」 その直後、割れていた窓の隙間から一機の小型ドローンが入ってきた。 「あ? なんだこれ、ドローン……?」 『バカ面激写かーんりょう。はいチーズ!』 ドローンからサイモンの声が響いたかと思うと、強力なフラッシュライトが爆発的に明滅した。 「うわあああ!? 目が、目がァ!?」 「今だ、突入!」 キヨヒトの鋭い号令とともに、階段の陰から影が飛び出した。 キヨヒトは、HK416を完璧なCクランプで保持し、視界を奪われてよろめく不良の一人に肉薄する。 「しまっ――」 不良がバットを振り下ろすよりも、キヨヒトがトリガーを引く方が早かった。 素早いセミオート連射で放たれたバイオBB弾の豪雨が、不良の胸元に突き刺さる。 「ぎゃああああ! 痛えええええ!?」 厚手の学ラン越しでものたうち回るほどの激痛。その隙に、キヨヒトは不良を思いっきり蹴飛ばした。自身よりも大柄な相手を、蹴り一撃で沈めたのだ。 「チッ、クソ野郎!」 一人が鉄パイプを振り回してキヨヒトに襲いかかろうとした、その瞬間。 《パァン!!》 狭い廊下に、乾いた破裂音が響いた。 鉄パイプを持つ不良の、まさに「右手の手のひら」に正確無比な単発のBB弾が着弾する。 「ぶっ、いっってぇ!?」 「……動くな。次は耳たぶを撃ち抜く」 廊下の暗がりから、M24のスコープを覗いたオリーが冷淡に言い放った。 狭い屋内で取り回しの悪いボルトアクションを彼があえて使う理由。それは、スコープ越しに相手の「最も痛い場所」をピンポイントで狙撃し、一撃で戦意を喪失させるためだった。 「ち、ちくしょう!」 二人が恐怖に顔を歪め、一目散に逃げ出そうと反転する。 だが、その先に待っていたのは――。 「う、うわあああああん! 来ないでぇぇぇ!!」 半泣きで叫びながらPKMを構える、ハルカの姿だった。 《――ダダダダダダダダダダダダダ!!》 サイクルを極限まで高めたPKMから、毎秒20発近いペースでBB弾の濁流が解き放たれる。廊下の壁や床に激しく跳ね返るプラスチック弾の凄まじい音と、ハルカの巨体から放たれる圧倒的な威圧感に、突撃してきた不良たちが足を止めて悲鳴を上げた。 「マ、マシンガン!?」 「なんだアイツ、化け物か!?」 圧倒的な火力の前に、不良たちは一歩も前へ進めない。すかさずキャシーがP90を構えて横から飛び出した。 「キヨヒト先輩の邪魔をするゴミ屑どもは、私が全員ハチの巣にしてやる!」 独特の高周期な発射音を響かせ、キャシーが不良たちの足元へ正確に弾幕を浴びせる。跳ね上がった弾が不良の脛に当たり、彼らは悶絶しながら廊下に転がった。
使い方の欄を読み終えてから読んでください。 「クソ、クソクソクソ!なんなんだアイツらは!?」 元職員室の中。赤髪のリーダー格の不良が、持ち込んできた盗品を必死にかき集めていた。 「奴らがあんなに強いなんて―」 「そこまでだ!」 その時、キヨヒトがドアをスライドさせ、突入してきた。 「…このっ、化け物が!!」 がむしゃらに、手元にあった鉄パイプをキヨヒト目がけて振り下ろした。 ヒュン、と空気を切り裂く凶器。 キヨヒトの脳内に、週末に見たばかりの映画のシークエンスが鮮明に蘇る。 (これは、ジョン・ウィックの――!) 彼は半身を引いて鉄パイプを紙一重でかわすと、男の伸びきった右腕を左手でキャッチ。そのまま自らの体軸を回転させ、男の懐に入り込みながら、強烈な肘打ち(を相手の胸元へ叩き込んだ。もちろん、高校生としての手加減は忘れない。力を3割に抑えた一撃。 「がはっ……!?」 息を詰まらせた男の膝が折れる。キヨヒトはそのまま男の手首を極め、床へと鮮やかに押し極めた。即座にホルスターから大型マグナム『デザートイーグル』を引き抜き、男の額の前に突きつける。 「……校内の不法占拠、および物品の窃盗。ずいぶん好き勝手やってくれたな。これ以上暴れるなら、全身あざだらけになるまでBB弾を撃ち込む」 冷徹な、まるで百戦錬磨の兵士のような声音。 赤髪のリーダーは、恐怖で歯をガタガタと鳴らし、ゆっくりと両手を挙げた。 「こ、降参だ……。あの噂、本当だったのか……」 「噂?」 「紛争地域を渡り歩いた、伝説の――」 「だから、ただの高校生だって言ってるだろ!!」 キヨヒトは、この日一番の、心の底からの大声を張り上げたのだった。 戦闘が終わり、廊下には悶絶する5人の不良たちが転がっていた。 「オールクリアだ。全員、怪我はないか?」 キヨヒトが最後の一人を放り投げ、周囲を警戒しながらチームに問いかける。 「俺は大丈夫だ、キヨヒト。怪我ひとつないよ」 「私は無傷です、先輩! ああ、先輩の流れるようなCQCの構え、最高にカッコよかった!!」 「そりゃどうも。ハルカは?」 「ふぇ、ふえぇぇ……うぅ、弾が、弾が切れちゃいましたぁ……。もうダメです、私、ここでボコボコにされちゃうんだぁ……」 「大丈夫だハルカ、もう敵は残ってない。よく頑張ったな」 「う、うぅ……キヨヒト先輩ぃ……」 ハルカが涙を拭いながら、巨体を小さくしてキヨヒトの後ろに隠れる。その姿は、まるで猛獣に怯える小動物のようだった。 『よし、今日も完璧!お疲れさん!』 無線からサイモンの緊張感のない声が流れる。 『生徒指導のハゲ――ゲフン、先生にはもう連絡しといたから。あと5分でこっちに回収しに来るってさ』 「了解」 『あ、それとキャシーちゃん。そこの転がってる奴らの“治療”、よろしくねー』 「了解しましたー!」 キャシーが医療用十字マークのついたポーチから、コールドスプレーや消毒液、そしてなぜか分厚い包帯を取り出して不良たちに近づく。 「ひぃっ、来るな! 来るんじゃねぇ、このアマ!」 清仁に肘打ちを喰らった男が恐怖に顔を歪めながら後ずさりする。しかし、キャシーの顔には、先ほどまでのキヨヒト達へ向けられていた天使のような笑顔は一切なかった。完全に冷え切った、ゴミを見るような瞳が不良を見下ろしている。 「静かにしてください。私は衛生部員です。負傷者の手当てをするのが義務なんですよ」 キャシーは男の腕を掴むと、容赦なくコールドスプレーを至近距離で噴射した。 「ぎゃあああああ!? 冷てぇ! 皮膚が凍る、凍る!!」 「あら、失礼。痛かったですか? じゃあ、包帯を巻いてあげますね」 キャシーは男の腕に包帯を巻きつけると、まるで雑巾でも絞るかのような怪力で思い切り締め上げた。 「ぎぎ、ギブ! ギブアップ! 折れる、腕が折れるぅぅぅ!!」 「これくらい我慢してください。キヨヒト先輩の神聖な放課後を汚した罪に比べれば、あなたの命なんて、そこらの虫ケラ以下なんですから」 ピキピキと音を立てて笑顔を浮かべるキャシーの姿に、他の不良たちも完全に戦意を喪失し、ガタガタと震えながらお互いに身を寄せ合っている。 「ね、ねぇキャサリンちゃん…もうちょっと優しくやってあげたら?」 「何言ってるんですかオリバー先輩。不良共にはそれ相応の“荒治療”が必要なんです。あ、キヨヒト先輩こそ、お怪我はありませんか? 先輩の傷口なら、私、舐めて治せます」 「やめろきったねぇな」 清仁が冷静に突っ込むと、キャサリンは「拒絶された……!」と嬉しそうに身悶えした。この少女、かなり重症である。 「なんでこんな事になっちゃったんだろうなぁ…」 キヨヒトは遠い目をしながら、HK416をスリングで背中に回した。 数十分後、生徒指導の教師たちによって不良たちが連行されていき、旧校舎には再び静寂が戻った。 サバゲー部の面々は、本校舎の片隅にある、本来の部室へと帰還していた。 部室のドアを開けると、そこには複数のモニターに囲まれ、お菓子を貪りながらヘッドセットを外すサイモンの姿があった。どっちかと言えば不良側にいそうな感じの彼女だが、ドローンの操縦技術と戦況把握能力は本物だ。 「おかえり、アルファチーム! 今日の戦果もバッチリ録画しといたから。SNSにアップしたら大バズり間違いなしだよ?」 「絶対にアップするなよサイモン!? これ以上噂に尾ひれがつくのはごめんだ!」 キヨヒトは机に突っ伏し、深い溜息をついた。 「キヨヒト、お前そのうち本物の特殊部隊からスカウト来るんじゃないの? あの崩し技、どう見ても高校生のそれじゃねえよ」 「だから、YouTubeの見様見真似だって言ってるだろ……」 「それを実際にできるやつを“天才”って言うんだよ」 オリバーがサイドアームの『USP』をガンケースに収めながら、心底疲れた様子で言う。 「あーあ、なんだって俺らがこんなことしなきゃいけないんだよ…」 「本当だよ。俺もただ普通にマックに寄って、ポテトでも食べて帰りたかった」 「でもでも! 今日もキヨヒト先輩の素晴らしい指揮のおかげで、学校の平和は守られたんですよ! これぞ愛の力です!」 キャシーが嬉々としてキヨヒトに冷たいお茶を差し出す。キヨヒトは「ありがとう」と受け取りつつも、その視線の熱さに少し気圧されていた。 「あ、あの……キヨヒト先輩……」 ハルカが、まだ重装備を着たまま、申し訳なさそうにモジモジと指を絡ませていた。 「どうした、ハルカ?」 「今日の私の射撃……やっぱり、怖くて目を瞑っちゃってて……。みんなの迷惑に、なっちゃいましたよね……?」 うつむくハルカの頭を、キヨヒトは苦笑しながらポンポンと叩いた。 「そんなことない。お前がPKMで通路を完全にロックしてくれたから、俺もキャシーもノーダメージで接近できたんだ。迷惑になんてなってないぞ。装備を脱いだら、サイモンのお菓子でも食べてゆっくり休め」 「……はいっ! ありがとうございます!」 パッと顔を輝かせ、ハルカが装備を脱ぎ始める。その下から現れたのは、本当にどこにでもいる、少し背の高いだけの気弱な女子高生の姿だった。 部室の窓からは、茜色の美しい夕焼けが見える。 彼らは戦う。 世界の平和のためでも、国家の命運のためでもない。 ただ、自分たちの平穏な高校生活と、サバゲー部という大好きな居場所を守るために。 「……さて、次の日曜日の定例会の作戦会議だ。今度こそ、普通のサバゲーをやるぞ」 清仁のその言葉に、部員たちは一様に「賛成!」と声を上げ、賑やかに夕暮れの廊下を歩んでいった。彼らの背中は、どこにでもいる、少しだけ賑やかな高校生たちのそれだった。