私はへーリオス朝大ドララ魔導帝国の宮廷魔導士、リヴィウス・コルヴィナリスだ。先日現れた異界人についての記録をここに記す。 その者は3日前、帝都グランバニアの北東の海岸近くに現れた。我々が出向いたところ、この世界でせねばならないことがあると言うので、それならばと従来通り我々の宮廷に招待し、もてなすこととした。 さて、我々もただ異界人をもてなしている訳ではない。本命は彼らの元居た世界についての情報だ。もしやすると我々の魔術にも活用できる知恵が存在するやもしれぬ。 まず私が聞いたところでは、その世界では、驚くべきことに、神が存在しない、正確に言えば全く姿を見せないせいで居るとしても分からない、ということだ。しかし、天国や地獄と行った場所は存在するらしい。地獄というのは良く分からないが、天国というのも天界とは異なる何かであるらしい。魂がどうのと言っていたが、我々とは魔術の体系が違うのやもしれぬ。しかし、我が国には創世神イリアス様や、神龍ヴァーディン様の話が先祖代々受け継がれているが、神の行いが語り継がれない、ひいてはそもそも存在しないなど、有り得ることなのか?だったらその世界は何者が作ったというんだ?私がそう言うと、その者は何かを思っているような反応を示したが、何を感じているのか私には良く分からなかった。どうもこの者は、何を思っているのか分かりづらい、謎めいているところがある。 そう、その者について特筆すべきことがあるとすれば、「謎めいている」ということだ。如何なる人物なのか、何もかもがはっきりとしない。確かにそこに存在しているのに、私はその者から一切の特性を読み取れなかった。しかし、それは断じて平々凡々ということではない。その者はどこか、異質な雰囲気を帯びているが、その正体が、我々の経験と知識を持ってしてもまるで掴めない。性別すら判然としない。そもそもあれは人なのかも分からない。あれは何か、人智の及ばぬところがあるのではないかとすら思われる。おまけに、言動もどこか飄々としたところがある。本当に良く分からない。 もっとも、魔術など、まだまだ分からぬことだらけではあるので、特段珍しいことであるかと言われると難しいが。 ただ、鎌を持っていることから推察するに、鎌使いであるらしい。だが腕は細いし、あの細腕であの大鎌を扱えるのかという疑問は残る。 その者は一晩明けた昨日、帝都を去って何処かへと行った。どこへ行ったのかは分からない。 長い人生を生きてきたものの、それでもまだ、何も分からないことというのはある物だ。