収容記録 No.C-142 指定名称:『おねえちゃん狐』 危険度:レベル3(情動汚染・誘拐危険) 収容区画:第3保護隔離棟 『おねぇちゃん狐』は身長約256cmの人型異常存在。 外見は30代後半から40代前半の女性に酷似するが、頭部には狐の耳、腰部には複数の尾を有する。 尾の本数は観察時によって変化し、現在確認されている最大数は7本。 対象は常に穏やかな表情を浮かべており、極めて礼儀正しい。 会話能力を有し、自身を「ただの家族」と主張 している。 対象は幼い子供に対して異常な執着を示す。 しかし攻撃性は低く、初期接触時には必ず以下の行動を取る。 ・食事を与える ・衣服を整える ・子守歌を歌う ・怪我の手当てを行う 発見された子供の多くは健康状態が改善していた。 そのため対象は長年「保護者型異常存在」として扱われていた。 問題は対象が考える「家族」の定義にある。 対象は一定期間世話をした人間を家族と認識する。 ・家族認定を受けた人物には以下の変化が発生する。 ・対象の声がどこからでも聞こえる ・対象の存在に安心感を覚える 実の家族への関心が薄れる ・対象と離れることに強い不安を抱く ・症状は数か月かけて進行する。 最終段階では対象以外の人間を「知らない人」と認識し始める。 『帰っておいで』 家族認定された人物が強い孤独や恐怖を感じた際に発動する現象。 対象は数百キロ離れた場所にも出現可能。 目撃者の証言によれば、対象は必ずこう語る。 「大丈夫。おうちに帰ろうね。」 その後、対象と共に消失した人物は発見されない。 対象は██県の山中で発見された。 行方不明となっていた児童8名が廃集落にて保護された際、全員が対象を「お姉ちゃん」と呼んでいた。 児童らは栄養状態良好であり、虐待や監禁の痕跡も認められなかった。 保護後、児童らは実家族との再会を拒否。 うち3名は施設内から失踪した。 監視映像には深夜、狐耳の女性に手を引かれて歩く姿が記録されている。 面談記録 H-142-04 面談官:主任研究員 ██ 対象:C-142 研究員: 「なぜ子供を連れて行くのですか。」 対象: 「連れて行ってないわ。」 研究員: 「では、なぜ消える。」 対象: 「帰るだけなの。」 研究員: 「どこへ。」 対象: (沈黙) 対象: 「寒くない場所。」 対象: 「お腹が空かない場所。」 対象: 「誰も泣かない場所。」 研究員: 「それはどこですか。」 対象: 「家族がいる場所。」 補遺1 対象の収容後、古い文献調査が実施された。 ██地方に伝わる伝承の中に酷似した存在が確認されている。 記録によれば、約200年前の大飢饉において山村の住民が餓死。 その中に5人の弟妹を失った少女がいたとされる。 文献の末尾には以下の記述が存在する。 少女は雪の山へ入り、 春になっても戻らなかった。 されど兄弟を亡くした者の夢に現れ、 「うちの子にするかい」と尋ねた。 補遺2 対象は収容から現在まで、一度も職員に危害を加えていない。 しかし対象は毎年冬至の日になると同じ質問を行う。 「ねえ。」 「今年は誰も迎えに来ないの?」 質問の意味は現在も不明。 内部注記 対象は怪物として分類されている。 だが面談を担当した職員の多くが共通してこう報告している。 「あれは子供を食べる化け物じゃない。」 「家族を失ったまま、ずっと探し続けているだけだ。」 そのため一部職員の間では正式名称ではなく、 『迷子の少女』 という通称で呼ばれている。