NTR(Network Time Reference)とは、ネットワークに参加する全ての戦術データリンクが身も心も捧げる「絶対的な時間基準」のこと。 戦術データリンクでは、TDMA(時分割複数アクセス)という、コンマ数ミリ秒単位で細かく区切られた決められた時間を仲間同士で共有し、密接に繋がり合うことで通信を成立させている。その為、全員がNTRの刻むリズムに完全に狂いなく同期していなければならない。 一度NTRの魅力(正確な同期信号)を知った端末たちは、もうNTRなしでは生きていけない身体にされてしまうのである。 [なぜNTRを奪われるとまずいのか] 敵の電子戦部隊は、この強固な依存関係を破壊するために、あの手この手でNTRを狙ってくる。 ・タイムスプーフィング(時刻偽装) 敵は、本物よりも強力で魅力的な「偽のNTR信号」を照射し、部隊の端末たちを誘惑する。偽のNTRに心を奪われ、時間を狂わされた端末は、自分が騙されていることすら気づかない。 ・ジャミング(電波妨害) 本物のNTRとの繋がりを電波で遮断される攻撃。NTRからの導き(同期パルス)を失った端末たちは、時間の感覚を失い、迷い始める。 [暗黒の戦場での孤立] NTRを攻撃され、同期がズタズタに引き裂かれた部隊に待っているのは、凄惨な結末である。 「信じていた時間が、すべて偽りだったなんて……」 1. 仲間の声が一切聞こえなくなる: タイムスロットが1ミリ秒でもズレると、データリンク上の他端末が発する声はただの雑音と化し、一切受信できなくなる。 2. 自分の声も誰にも届かない: 自分がどれだけ叫んでも、タイミングがズレているため、仲間には無視され、最悪の場合は味方の通信を邪魔するお邪魔虫へと成り下がる。 3. 完全な猜疑心と孤立: レーダーで捉えた敵情報も共有できず、戦術画面はフリーズ。暗黒の戦場で「自分は本当に味方と繋がっているのか?」という底なしの恐怖に襲われ、部隊としての機能は完全に崩壊する。 [絶望の淵から、それでも繋がろうとする端末] しかし、同期を失ったからといって、すぐに諦める端末はいない。精密な水晶の心臓(高精度クリスタルオシレーター)を持つ端末たちは、NTRからの導きが途絶えた後も、しばらくの間、自分の内なるリズムだけを頼りに生き続けようとする。 「貴方がいなくても、私は……まだ覚えているから」 これを「ホールドオーバー」という。NTRなしで、過去に刻まれた時間の記憶だけを胸に、一人で時を刻み続けるホールドオーバー。 しかしその想いも、やがて虚しく朽ちていく。どれほど高精度な内部時計も、時間の経過と共に少しずつズレていく運命にある。数秒、数十秒……そしてついには、取り返しのつかないほどの時間的孤立(タイムスロットの完全逸脱)へと落ちていくのだ。