<スイカバー> 「太子、何食べてんですか」 七月。下旬に突入し、セミがみんみんとうるさく喚いている頃。仁王立ちをした妹子が、私をじろりとにらんで言った。しかし、それは「言った」ごときで済むわけがなく、明らかに「言い放った」に近いものであった。 「これはスイカバーだ」 「そんなことはわかってますよ」 アイスを一度舐め、数秒、なぜ妹子は怒っているのだ、と考えてやっと理解した。私が仕事をサボり、その上スイカバーをかじっていることが理由だ。普段ならば、妹子の言葉を一言一句違わず覚えているはずの私が、思考を滞らせてしまうのは、恐らく夏バテと恋情が要因だろう。眉間にシワを寄せている妹子も、なかなか可愛らしいものである。気が立っていても声を大きくあげないのも、私のような身上の人間にさえ厳格に注意を出来るのも、徹夜明けの後輩に食事を奢ってあげるのも、彼への好意を募らせる理由となっていた。うだうだと妹子が私への説教をたれていると、じっとりとした暑さで、溶けたスイカバーがだらだらと指を伝った。うへえ、溶けちゃった、とひとりごちると、更に惨めさを助長するようだ。どうにかしようにもハンカチすら持ち合わせていない。好きな人にこんな理由で頼るのも、身だしなみもどうにもなっていないのも、総じてかなりカッコ悪い。だがこのままジャージが甘い汁でしみしみになるのも考えものであった。 「妹子ー、助けてよ」 「情けないですね本当に」 彼がハンカチを取り出し膝をついて、私の腕を拭う。スイカバーを私から取り上げて、がしっと手首を掴まれる。乱暴のように見えて優しい妹子の素振りに、言語化が難しい感情が沸き立つ。思わず、妹子の頬に手を添える。途端に、唇がふに、と触れるのを感じた。 「な、」 しばらく放心して、状況を理解した妹子が瞬く間に真っ赤になる。スイカバーが床に落ちた。ハンカチも床に落ちる。空いた手を懸命に動かして、私を精一杯の力ではねのけるが、それは小さい子供と相撲をしているようなものだった。 「ばばばばかじゃないですか!?あんた!!な、なんでこんな、は!?」 私を大声で罵るが、いつもより格段に落ちた語彙力に、ふと笑いがこぼれる。下を向いて、ばくばくとした心臓を抑え込むように呟く。 「好き、だあ.....」 顔をあげて、妹子の姿を追うと、既にばたばたと廊下を走ってしまったあとだった。床をぬらしたスイカバーを拭くため、私はにやけをこらえて雑巾を取りに行った。
遅れました!!主催者なのにごめん!!