〇月〇日 今日は何時間歩いたのか分からない。 相変わらず黄色い壁と蛍光灯ばかりだ。時計もスマホも役に立たない。ここでは時間の感覚がおかしくなる。 さっき、いつものように廊下を歩いていたときだった。 遠くの曲がり角の先に、何かが見えた。 最初は人だと思った。 でも違った。 そいつは異常に背が高くて、動き方も変だった。まるで関節の動きを忘れたみたいに、ぎこちなく歩いていた。 慌てて壁の陰に隠れた。 心臓がうるさい。 こんな音で見つかるんじゃないかと思うくらいだ。 恐る恐る覗くと、そいつはまだそこにいた。 廊下をゆっくりと歩き回り、ときどき立ち止まっていた。 何をしているのかは分からない。 ただ一つ分かったことがある。 あれは人間じゃない。 見ているだけなのに背筋が寒くなった。 理由は分からない。 本能みたいなものが「近づくな」と警告していた。 数分後、そいつは別の通路へ消えていった。 その瞬間、足の力が抜けてその場に座り込んだ。 見つからなかった。 それだけで十分だった。 でも安心はできない。 この場所には、少なくともあれがいる。 そして、あれが一体だけだとは思えない。 今は静かだ。 蛍光灯のブーンという音しか聞こえない。 だけど、廊下のどこかで何かが動いている気がする。 今日はもう進みたくない。 できるなら、この壁の陰で朝まで隠れていたい。 ……朝なんて来るのかも分からないけど。