こんにちは。ボカ郎です。これから、10話にかけての短編小説を作りました。これは6話です。もし、気に入りましたら、星やハート、そしてフォローをしてくれると嬉しいです。また、今後、好評でしたら、続編、またはアニメ化、もしくは新小説を作るかも知れません。もしよかったらこんな初心者ですが、応援していただけるとありがたいです。
5人が静かに乾杯を交わした、その刹那だった。 ――ズウゥゥゥン……。 大地を底から揺らすような不気味な地鳴りが、月見の丘に響き渡った。 せっかくシルフの音楽が整えた優しい風が、突如として断ち切られる。冷え切った金属と、重油の焦げる嫌な臭いが、満開の夜桜の香りを暴力的に塗り替えていった。 「……来たわね」 ステラがグラスを置き、鋭い視線を丘の麓へと向けた。 ルカたちが岩肌の隙間から見下ろした先――そこには、暗闇を恐怖する人間の悪意を具現化したような、凄まじい光景が広がっていた。 ルミナリアの街から、無数の光の筋がうねるように這い出てくる。それは何百騎もの『輝光騎士団』の進軍だった。しかし、それだけではない。彼らの中心には、高層ビルをも見上げるほどの巨体を誇る、鋼鉄の移動要塞が鎮圧のために起動していたのだ。 巨大要塞の最上部、巨大なレンズが不気味に回転し、月見の丘をロックオンする。 『――愚かな夜の潜伏者どもよ。いや、世界を惑わす反逆者たちよ』 要塞から拡声スピーカーを通じて、大地を震わせる声が響いた。冷酷で、一切の迷いのない高慢な声。街のすべての光を統べる支配者――灯火公爵、その人の声だった。 『我が光の領域ルミナリアにおいて、闇は悪であり、夜は駆逐すべき病だ。かつて世界を狂わせた「月」などという不確定な光を再び呼び戻そうなど、言語道断。即刻その企てを捨て、妖精を引き渡せ。さもなくば、その丘ごと跡形もなく焼き尽くす』 「何が病だ、スカポンタンめが!」 バザルが石畳を木槌で激しく叩いた。「人間どもが暗闇を怖がって勝手に閉じこもったクセに、言わせておけば!」 「ルカ……」 ルナが恐怖に身を縮め、ルカの背中に隠れる。要塞のレンズが放つ予備光線を浴びるだけで、彼女の銀色の髪が、まるで煙を上げるようにかすんでいく。街の全電力を注ぎ込んだその人工光は、月の魔力を完全に中和し、消滅させるための「絶対の毒」だった。 「……来るぞ!」 シルフの鋭い警告と同時に、巨大要塞のレンズが完全に発光した。 「――照射せよ。世界に夜など不要だ」 公爵の冷徹な号令とともに、爆音を立てて【絶対輝光】の巨光が放たれた。 それは夜を徹して昼にするような生易しいものではなかった。直視すれば目を焼き、浴びれば肌を焦がすほどの、白銀のレーザー濁流。それが津波となって、月見の丘を丸ごと飲み込もうと押し寄せてくる。 「私の風よ、盾となれッ!」 シルフが叫び、ハープの弦を狂おしいほど激しく掻き鳴らした。 丘の周囲の空気が一瞬で圧縮され、目に見えるほどの巨大な「真空の嵐」となって光の濁流を受け止める。 光と風が衝突し、激しい衝撃波が周囲の夜桜の枝をへし折っていった。 「くっ、あああああ……!」 シルフの布に覆われた目元から、血が一筋伝い落ちる。見えない目で世界の命脈を捉える楽師をもってしても、街の総電力を叩きつけるような暴力的なエネルギーを防ぎ続けるのは、限界を超えていた。風の盾が、ミシミシと悲鳴を上げ、光の粒子が盾を透過し始める。 「シルフ! 持ちこたえてくれ!」 バザルが飛び出し、自身の体よりも巨大な岩を木槌で弾き飛ばした。光の進路を遮るように岩の障壁を作るが、公爵の光線は触れた岩を一瞬でドロドロのマグマへと変えていく。 「無駄よ、数が多すぎるわ!」 ステラが悲鳴に近い声を上げる。要塞の背後からは、ランタンを掲げた輝光騎士団が、光の盾を構えて一斉に丘を登ってきていた。包囲網は完全に狭まり、シルフの風も、バザルの怪力も、圧倒的な物量と出力の前に、じわじわと押し潰されようとしていた。 光の圧力に押され、ルカたちは中央の祭壇まで退げられる。 「ルカ……もう、私を置いて逃げてください」 ルナが、涙を流しながらルカの手をほどこうとした。 「あの光は本気です。私一人を消すために、この丘も、あなたたちも、全部焼き尽くす気です。これ以上、私のためにみんなが傷つくのは見たくない……!」 「バカ言うな!」 ルカはルナの手を、壊れやすい時計のパーツを扱う時よりも、ずっと強く、優しく握りしめた。 「逃げるわけないだろ。……まだ、宴は始まってもいないんだ」 ルカの目が、真っ直ぐに麓の移動要塞を見据えていた。彼の額からは冷や汗が流れていたが、その瞳には不思議なほどの静けさがあった。時計職人として、複雑に絡み合った最悪の状況(システム)を観察し、その「唯一の解」を見つけ出そうとする目だった。 「みんな、聞いてくれ!」 ルカは荒れ狂う光の嵐の中で、大声を張り上げた。 「まともに戦っても勝てない! あの公爵の光は、暗闇への恐怖の塊だ。恐怖で凝り固まった光だから、あんなに攻撃的で、冷たいんだ!」 「だったらどうするってんだ、小僧!?」バザルが叫ぶ。 「消せないなら、塗り替えるんだ! 街の人間も、公爵も、本当は光を求めてる。だったら、あの暴力的な光そのものを、僕たちの宴の『舞台照明(スポットライト)』に変えてしまえばいい!」 「……! 光を、巻き込むというの?」ステラが目を見張る。 「そうだ。シルフ、君の音であの光の波調を乱してくれ! バザルさん、酒の香りを風に乗せてあの要塞まで届けるんだ! ステラ、君の踊りで、あの忌々しい光の筋を、美しいステップの導線に変えてくれ!」 ルカは懐から、満月寸前で激しく脈打つ「月の時計」を掲げ、修理したばかりの祭壇の核へと叩き込んだ。 カチチチチチチッ!!! 時計と祭壇の歯車が完全に噛み合い、丘全体が巨大なオルゴールのように共鳴を始める。 「僕たちが逃げ回るんじゃない。あいつらの光を、僕たちの宴に招待するんだ!」 ルカの突拍子もない、しかし絶対的な確信に満ちた言葉に、仲間たちの顔に不敵な笑みが戻った。 シルフが血を拭い、ニヤリと唇を歪める。バザルが樽の栓を豪快に叩き割る。ステラが群青色のドレスを翻し、最も眩しい光の渦へと一歩を踏み出した。 絶望の包囲網の中で、反撃の、いや、前代未聞の「宴の幕」が切って落とされようとしていた。