メモクレ見てね
『新幹線大爆発』 完全版 第1話 「まもなく、終点、東京です」車内アナウンスが流れる新幹線。学生のシュウは、大好きなプログラミングの大会に出場するため、この新幹線に乗っていた。パソコンの画面を見つめながら、シュウは違和感を覚える。新幹線のWi-Fiを通じて、何者かが車内のメインコントロールシステムを乗っ取り、爆破プログラムを起動させていたのだ。画面に浮かび上がる真っ赤な警告。『時速200キロ以下に減速したら、この新幹線は自動で大爆発する』「嘘だろ……!?」窓の外を見ると、新幹線はすでに東京駅に向けてスピードを落とし始めている。爆発まであとわずか。シュウの技術だけでは、何重にもロックされた爆破コードを制限時間内に解除できない。「くそっ、コードが多すぎて僕一人じゃデバッグが間に合わない……!」シュウが絶望しかけたその時、パソコンの画面の端に、見覚えのある「黒い猫のアイコン」がピコンと跳ねた。かつてシュウの自作ゲームのバグを夜中にこっそり直してくれた、あの天才ネットフレンドのハッカー(コードネーム:クロ)からの緊急通信だ。クロは世界中のセキュリティーを遊び場にするほどの腕前を持つが、シュウの作るゲームの大ファン。今では夜な夜なボイスチャットでプログラミングの技術を競い合う、シュウにとって唯一無二の「最強の相棒」だった。『シュウ、今その新幹線に乗ってるでしょ? 国土交通省のサーバーをハッキングしてたら、君の乗る新幹線の制御システムに異常なプログラムが流れていくのを見つけたんだ。外から強制アクセスして、君の画面に回線を繋いだよ!』「クロ……! 助かった、頼む!」『任せて。爆弾のセキュリティーはかなり手ごわいけど、僕たちの共同開発に比べたらバグみたいなもんさ。僕が外側からファイアウォールをぶち破って注意を引く。その隙にシュウは車内から直接、爆弾のタイマーを止めるプログラムを流し込んで!』新幹線がガタガタと音を立ててさらに減速する。時速は220キロ……210キロ……。二人の天才プログラマーによる、時速200キロの壁を超えた「命がけの共同デバッグ」が今、始まった――! 第2話 「現在の時速、205キロ……! あと5キロで爆発する!」シュウは冷や汗を流しながら、猛スピードでキーボードを叩いた。新幹線のブレーキを解除するコードの前に、犯人が仕掛けた「無限ループの罠」が立ち塞がっている。消しても消しても、新しいエラーコードが画面を埋め尽くしていく。『シュウ、焦らないで。そいつはダミーのコードだよ!』イヤホンからクロの冷静な声が響く。『犯人は画面をエラーでいっぱいにして、僕たちの処理速度を落としそうとしてる。Scratchでいう「ずっと」のブロックの中に、無駄な変数を入れまくってる状態さ』「なるほど……本物の制御プログラムは別の場所に隠されてるってことか!」『そう。僕が今からそのダミーコードを全部フリーズさせる。3、2、1……今だ!』クロが外部から超強力な負荷をかけると、シュウの画面を埋めていたエラーがピタリと止まった。その奥から、新幹線の速度制御を行う「本当のメインシステム」が姿を現す。「見つけた! 残り時間は……あと30秒!?」新幹線のスピードメーターは、すでに時速202キロを指していた。東京駅のホームの手前で、自動制御システムが完全に停止させようとしている。『シュウ、最後のコードは暗号化されてて僕の手元からは書き換えられない! 車内のWi-Fiの根元に、君のパソコンから直接「条件分岐」のプログラムを上書きして!』「条件分岐……『もし新幹線の速度が200キロ以下になりそうなら、強制的にモーターをフル回転させる』だな!?」『それさ! 君の得意なロジックだ、いけー!』シュウの指が残像が見えるほどの速さで動き、最後のエンターキーが叩かれた。時速はちょうど200キロ。新幹線がガタガタと激しく揺れた。――ズドォォォン!!爆発の音ではない。シュウのプログラムが新幹線のシステムを完全に上書きし、すべてのブレーキを強制解除して、再びモーターが限界まで加速し始めた音だった。新幹線は時速250キロまで急加速し、東京駅のホームを猛スピードで通り過ぎていく。「ふぅ……間一髪、助かった……」シュウは椅子に崩れ落ちた。しかし、イヤホン越しのクロの声はまだ震えていた。『シュウ、喜ぶのはまだ早いよ。東京駅を通り過ぎたってことは、この先にあるのは……行き止まりの線路だ。このままだと、あと3分で壁に激激突するよ!?』「ええっ!?」 第3話 「時速260キロ……。このままだと、あと3分で線路の終点に激突する!」シュウは迫り来る死のカウントダウンに息を呑んだ。『シュウ、激突を避けるには、新幹線の電力を供給している「変電所」のシステムをハッキングして、この区間の電気を強制シャットダウンするしかない!』クロの緊迫した声が響く。「分かった、すぐにアクセスする!」シュウがキーボードに手をかけた、その時だった。「そこまでだ、ガキども」冷酷な声とともに、シュウの頭上から強い力がかかった。バサリとパソコンの画面が閉じられ、そのまま見知らぬ男の手によってノートパソコンが奪い去られてしまった。「ああっ!僕のパソコン!」驚いて顔を上げると、そこには黒いスーツを着た、新幹線の乗客を装っていた男が立っていた。男の目つきは狂気に満ちている。「まさか、国が総力を挙げても解除できなかった私の爆破プログラムを、たかが学生の分際で書き換えるとはな。だが、それもここまでだ。このパソコンさえ壊せば、お前たちに打つ手はあるまい」男は冷笑しながら、シュウのパソコンを床に叩きつけようと振り上げた。『シュウ!そいつが犯人だ!パソコンを壊されたら、本当に電気を止められなくなる!』イヤホンからクロの叫び声が聞こえる。しかし、パソコンは男の手の中だ。激突まであと2分。シュウは喉の痛みを忘れ、犯人に向かって叫んだ。「待て!そのパソコンを壊しても無駄だ!僕のプログラムは、すでにネットワークの『クラウド上』で自動実行され続けている!」「何だと……!?」男の動きが一瞬、ピタリと止まった。それこそが、シュウが仕掛けた「ハッタリ(嘘)」の罠だった。プログラミングのロジックを知り尽くした犯人だからこそ、「自動実行」という言葉にほんの一瞬だけ思考を奪われ、隙が生じたのだ。「今だ、クロ!!」 第4話 「クラウドで自動実行だと?……フン、見え透いたハッタリを」男はすぐにニヤリと冷笑を浮かべた。「お前のアクセスログはすべて私の手元で監視している。変電所のメインサーバーへ侵入するためのプロトコルは、まだ未完成のはずだ。自動実行などできるわけがない」犯人もまた、すべてを計算し尽くした天才プログラマーだったのだ。シュウのハッタリは一瞬で見破られてしまった。男は勝ち誇った顔で、シュウのパソコンの画面を再び開き、キーボードをいくつか叩いた。「念のために、お前たちが書き換えた速度制御のコードを、もう一度『無限ループ』の闇に突き落としてやろう。今度はどんなデバッグも通さない完璧なバグだ」激突まであと1分30秒。新幹線は時速270キロを超え、車体は悲鳴を上げるように激しく震えている。万事休すかと思われたその時、男の持つパソコンの画面が、突然眩しい緑色の光を放った。『――引っかかったね、犯人さん』イヤホンからではなく、シュウのパソコンのスピーカーから、クロの不敵な笑い声が大音量で響き渡った。「な、何だと!?」驚く男の目の前で、パソコンの画面に「ダウンロード完了」の文字が浮かび上がる。シュウは床に座り込んだまま、静かに笑った。「僕のハッタリの目的は、クラウド云々じゃない。あなたに『僕のパソコンのキーボードを触らせること』だったんだ」『そう。僕たちのパソコンにはね、キーボードが叩かれた瞬間に、触っている端末のIPアドレスを逆探知して、相手のシステムに強力なウイルスを送り込む「トラップ・コード」が仕込んであったのさ!』男が自分でプログラムを書き換えようとキーボードを叩いた瞬間、男が新幹線の制御に使っていた「真の黒幕端末(タブレット)」に、クロのウイルスが直接送り込まれたのだ。「おのれ、ガキどもが……!」男の手元のポケットで、犯行用のタブレットが激しくエラー音を上げ始めた。 第5話 「バ、バカな……私の完璧なシステムが、乗っ取りされていく……!?」犯人の男は、手元で煙を吹き始めたタブレットを見つめ、恐怖に顔を歪めた。クロのウイルスによって犯人の制御権は完全に奪われ、すべての権限がシュウのパソコンへと転送されていく。『シュウ、今だ! 犯人の端末を経由して、新幹線のブレーキシステムのルートが開通したよ!』イヤホンからクロの叫び声が響く。線路の終着点、巨大なコンクリートの壁がすぐ目の前に迫っていた。激突まであと30秒。シュウは男の手からパソコンを奪い返すと、最後の力を振り絞ってキーボードに指を走らせた。「これで……終わりだ!」シュウが打ち込んだのは、Scratchでいう【「すべてを止める」ブロック】。新幹線の全システムを強制的にシャットダウンし、非常用バックアップの物理ブレーキを100%で作動させる緊急コマンドだ。画面に緑色のチェックマークが点灯した瞬間、新幹線の車輪から激しい火花が飛び散った。キィィィィィィィィィン!!!鼓膜が裂けるような凄まじい摩擦音とともに、猛烈な減速のG(重力)が襲いかかる。シュウも犯人の男も、あまりの衝撃に床へと投げ出された。新幹線は激しく車体をきしませながら、滑るように進み――そして、ピタリと止まった。静寂が訪れる。窓の外を見ると、巨大な壁のわずか数センチ手前で、新幹線は完全に停止していた。「……止まった……?」シュウが恐る恐る目を開けると、イヤホンから「やったぁぁぁ!」とクロの野生的な大歓声が聞こえてきた。『大成功だよシュウ! 僕たちの完全勝利だ!』その後、すぐに駆けつけた本物の警察官たちによって、犯人の男は現行犯逮捕されて連行されていった。数日後。無事にプログラミング大会を終えたシュウは、いつものように夜遅く、自室のパソコンの前にいた。画面の向こうでは、黒い猫のアイコンがピコピコと動いている。「今回は本当にありがとな、クロ。お前がいなきゃ死んでたよ」『何言ってるのさ。僕たちは世界最強のバディだろ? さぁ、お礼に次の新作ゲームのバグ取り、手伝ってよね!』「ハハ、了解。じゃあ、まずはこのブロックから直すか」二人の天才学生プログラマーのキーボードの音が、静かな夜の部屋に、いつまでも心地よく響き渡っていた。(おわり)