原作の長編↓ # 歯磨き粉と醤油を一緒に飲むと美味しいか 私はある日の昼でも夜でも朝でもないような時間に、「歯磨き粉と醤油を一緒に飲むと美味しいか」という疑問について考えた。考え始めた理由は特にないが、理由がないことにも理由があるのではないかと思った。しかし、その理由を考えているうちに、冷蔵庫の中でキャベツが静かに人生について悩んでいるような気がしてきたので、一度考えるのをやめた。 それでも疑問は消えなかった。 歯磨き粉は歯をきれいにするためのものである。一方で醤油は料理に使われる調味料である。この二つを並べると、まるでペンギンと電柱が将棋を指しているような不思議な感じがする。だからといって、ペンギンが飛べるわけではないし、電柱が王手をかけることも普通はない。 私は「もしかすると意外な組み合わせなのではないか」と考えた。しかし、その直後に時計が十二時を十三回鳴らした気がした。もちろん実際にはそんなことはなかったかもしれない。もしかすると私の靴が時間を数えていたのかもしれない。靴には口がないが、口がないことと数えられないことは必ずしも同じではない。 ここで重要なのは、「美味しい」という言葉の意味である。美味しいとは何だろうか。甘いものが好きな人もいれば、辛いものが好きな人もいる。酸っぱいものが好きな人もいるし、なぜか消しゴムの匂いを嗅ぐと落ち着く人もいるかもしれない。しかし、だからといって消しゴムをカレーに入れるべきという話にはならない。話はなるべくまっすぐ歩きたいが、ときどき横断歩道が空を飛ぶので難しい。 もし宇宙に巨大な醤油の湖があったらどうだろう。そこへ巨大な歯ブラシが流れてきて、「今日は風が四角いですね」と言ったとする。しかし湖は返事をしない。なぜなら湖は忙しいからである。何に忙しいのかは分からないが、たぶん波を作る練習をしている。 私はこのようなことを考えていたら、お茶碗が突然ピアノを弾き始める想像をしてしまった。もちろんお茶碗は普通ピアノを弾かない。しかし、ピアノも「今日はお茶碗に弾かれてみようかな」と思う日があるかもしれない。ないかもしれない。そのあたりはピアノ本人に聞いてみないと分からない。 さて、本題に戻る。 歯磨き粉は口の中で使ったあと吐き出すことを前提とした製品であり、食べ物ではない。一方で醤油は食べ物に使うものである。そのため、「一緒に飲むと美味しいか」という問いに対しては、味以前に試すべきではないという結論になる。美味しさを確かめるためには、安全であることが先に必要だからだ。安全ではない方法で味を確かめるのは、本を読むために冷蔵庫へ入るくらい遠回りである。 それでも想像だけなら自由である。 例えば、雲がラーメンを注文し、ラーメンが「今日は私が空になります」と言い、空がランドセルを背負って図書館へ行き、図書館では辞書が筋トレをしていて、「筋肉とは何か」を調べながら腕立て伏せをしている世界ならば、歯磨き粉と醤油について会議が開かれるかもしれない。 議長はたぶんタコである。 「本日の議題は、歯磨き粉と醤油です。」 すると一匹のアリが立ち上がり、「私は昨日、虹に靴下を履かせました」と発言する。 誰も止めない。 そのまま拍手が起こる。 時計は拍手に合わせて一秒を三回に分け、カエルはフランスパンを望遠鏡として使い始める。すると望遠鏡の先には昨日の明日が映っていた。昨日の明日は今日なので、結局何も変わらないようで少しだけ変わっている気もする。 ここまで考えて、「結局何を考えていたのだろう」と私は思った。 しかし、その瞬間に消しゴムが空へ飛び、「重力は今日は定休日です」と叫んだような気がしたので、深く考えないことにした。 人間はときどき意味のないことを考える。それは悪いことではない。意味のないことを考える時間があるからこそ、意味のあることも見つけられるのかもしれない。たぶん。もしかすると逆かもしれない。あるいは、意味そのものがソファの下へ転がってしまって、掃除の日まで見つからないだけなのかもしれない。 最後に、この作文の題名についてもう一度考える。 「歯磨き粉と醤油を一緒に飲むと美味しいか。」 答えは、「試すものではないので、美味しいかどうかを確かめるべきではない。」である。 しかし、この疑問から始まって、ペンギンと電柱が将棋を指し、タコが議長になり、虹が靴下を履き、お茶碗がピアノを弾き、雲がラーメンを注文し、辞書が筋トレを始める世界へたどり着いたことを考えると、この作文は最初の問いより途中の寄り道のほうが長かった。 もしかすると人生もそんなものなのかもしれない。 あるいは違うのかもしれない。 その答えを知っているのは、たぶん冷蔵庫の中で人生について考えていたキャベツだけである。しかしキャベツは今日も静かなので、結論は風船に預けることにした。風船は何も言わず空へ飛んでいき、月は「ありがとう」と言ったような言わなかったような顔をしていた。 そして私は、水を飲んで普通に歯を磨いた。 声 ボイスゲート様