地上には、誰もいなかった。 少なくとも、 彼女が歩いている範囲には。 「......」 瓦礫の上を、一人の少女が歩いていた。 深く被ったパーカー。 その下から除く、赤い右目。 左目は、赤と青が重なったような奇妙な瞳。 少女は足元にあるアビサルの塵の山を見下ろした。 「......またか」 もう、何体倒したのか分からない。 十体。 三十体。 百体。 数える意味すらなくなっていた。 ここ一ヵ月ほど、 彼女は地上でアビサルを狩り続けていた。 目的はない。 ただ、強くなるため。 (そして──) 「......疲れた」 (さすがに疲労が溜まってきた...) (地上での生活にも慣れたとはいえ、一人で過ごすには限界がある) 彼女はホームに戻ることにした。 地下へ降りる。 久しぶりの人工的な明かり。 人の気配。 それらを感じながらも、彼女は人目を避けるように歩いた。 向かうのはこの層の外れにある、簡素な休憩用の拠点。 討伐部の正式な施設ではない。 地上から帰還した討伐部員などが、一時的に休める場所。 彼女にとっては、それで充分だった。 「............」 水の流れる音だけが響いている。 人の声はない。 足音もない。 ただ、薄暗い通路を一人で歩いていく。 (──静かだ) そう思った瞬間、 「──!」 (殺気!) 反射的に体を捻る。 直後、 何かが、彼女のいた場所を吹き飛ばした。 「っ!」 壁が砕ける。 少女は後ろへ飛び、距離を取った。 「誰......?」 言葉が止まる。 暗闇の向こう。 ゆっくりと姿を現したのは── 人間。 ボロボロの服。 体中についた傷。 そして、 笑っている。 何かがおかしいくらいに。 「...Insanity...!」 その名前を口にした瞬間。 相手が笑みを深くした。 特定指名手配犯。 殺人を繰り返し、今ではホーム内でも危険人物として扱われている存在。 ──コードネーム《Insanity》。 「...なんで、ここに...?」 返事はない。 代わりに、 「──ははっ!」 狂った笑い声。 次の瞬間。 一気に距離を詰められた。 「っ!」 拳を受け止める。 (──重い) 「......!」 弾かれる。 壁へ叩きつけられる寸前で体勢を立て直した。 「こいつ...」 速い。 そして何より、 力が異常に強い。 武器も持っていない。 能力を使っている様子もない。 それなのに、 一撃一撃が、まるでアビサルのようだった。 「──!」 再び攻撃。 避ける。 殴る。 避ける。 蹴る。 距離を取る。 それでも、負ってくる。 「......っ!」 彼女は反撃する。 だが、 「効いてない...?」 奴は笑っている。 痛みなど存在しないかのように。 「......化物」 (私も人の事言えないけど...) その言葉に反応したのか、 「あはははは!!」 そして、 「──ドンッ!」 壁が大きく砕けた。 「っ!」 (直撃は避けれた...) だが、衝撃で体が吹き飛ばされる。 「......!」 (まずい...!) (このままでは──) その時だった。 「──?」 (人の気配?) (遠い) (誰かが来る...!) 「────!」 彼女は一瞬、そちらへ意識を向けてしまった。 その一瞬で、 「────」 (遅れた...!) 強烈な一撃が身体を捉える。 「ぐっ.........!」 吹き飛ばされる。 壁に背中を打ち付けた。 (まずい...) (ここで人に見つかれば──) (駄目だ...) (それだけは避けたい) 少女は立ち上がった。 奴がこちらを見ている。 笑っている。 「............」 彼女は拳を握った。 (どうする) (どうすれば──) その時。 水路の奥から、足音が聞こえてきた。 近づいてくる。 「......まずい」 少女は身を翻した。 この場から離れなければ。 今は戦うことよりも── 見つからないことが重要だった。 ───────────────────────────────────── ───────────────────────────────────── ───────────────────────────────────── 「地下水路の点検?」 蒼から伝えられ、息吹は首を傾げた。 初任務から二週間が経った。 息吹は討伐部で、伸びしろの多い三級の部員と認められた。 その生活は、すっかり日常になっていた。 起床。 朝食。 任務。 訓練。 食事。 先輩たちとの会話。 そして、睡眠。 毎日がそんな繰り返しだった。 最初は何をするにも緊張していた。 武器の扱い。 能力の使い方。 アビサルとの戦い。 先輩たちとの接し方。 けれど、 「そうだ」 「運営部の仕事が回ってきたんだ」 「運営部の?」 「人手が足りないらしい」 「あー......」 息吹はなんとなく納得した。 運営部。 ホームの設備管理や整備などを担当する部署。 重要な仕事なのは間違いない。 ただ、 「...地味だから希望者少ないんだろうなぁ」 「聞こえているぞ」 「すみません!」 蒼が呆れたように息を吐く。 「点検だけでいいらしい 異常があれば端末を使って報告しろ」 「了解しました!」 息吹は地下水路へ向かった。 ───────────────────────────────────── 一層の地下水路。 「...静かだなぁ」 水の流れる音。 配管を通る風。 時折聞こえる機械音。 息吹は持ってきた端末を確認しながら、一つ一つ設備を見ていく。 「ここも問題なしっと」 そのまま進んでいく。 とにかく地味な作業だった。 (でも) (こういう仕事もホームを守るためには必要なんだろうな) 「アビサルと戦うだけが討伐部じゃない、か」 小さく呟く。 そう思いながら、次の区画へ進んだ。 その時、 「──ドォンッ!!!」 「!?」 突然、 地下水路全体が震えた。 息吹は反射的に剣へ手を伸ばす。 「今の...何...!?」 轟音。 さらに、 「──ドンッ!」 「──!」 音の方向を見る。 (遠い...) けれど、確かに何かが起きている。 「...行ってみよう」 警戒しながら、音のした方向へ進む。 曲がり角。 更にその先。 そして、 「──!」 息吹は目を見開いた。 そこには── 一人の人間が倒れていた。 壁や床にも、戦闘の痕跡が残っている。 そして、 その顔には── 笑み。 「......え?」 その姿を見た瞬間。 直感的に理解した。 普通の人間じゃない。 「......誰...?」 「あははははっ!」 息吹は端末を取り出した。 「本部...!」 通信を開く。 「こちら終宮息吹... 地下水路で負傷者を発見しました!」 「場所は──」 座標を送る。 「......はい、意識はあります」 「......え?」 倒れていた人物が、ゆっくりと顔を上げた。 目が合う。 そして、 笑った。 「......!」 息吹は剣を抜いた。 「......救援が来るまで、ここで食い止める」 通信が聞こえてくる。 「どういう容姿だ?」 「ボロボロの...」 今気づいた。 (こんなの、アビサルなら絶対につかない...) 「ボロボロで、血まみれの服を着ています!」 「まさか...Insanityか...!?」 聞き覚えのない名前だった。 自分でもわかっていた。 勝てるかどうかなんて、わからない。 でも、 (逃げるわけにはいかない) 「......来て」 息吹は水色にほのかに光る剣を構える。 地下水路に、水の流れる音だけが響いていた。 そして、 二人の戦いが、始まった。
前話 第二話「地上の洗礼」 https://scratch.mit.edu/projects/1375886527/ 次話 第四話「狂奔の響音」 まだないです() 大部分はAIに描いてもらって、一部修正して作りました なんでか修正後のコピペ用データ消えてたからまるまるおんなじ文を描いてて疲れた() だって自分のパソコン、HとGが反応しないんだよ!?「は」とか「が」とか、大分助詞とか使えないんだもん全部コピーペーストでやるしかないんだもん面倒くさい! ちな別のサイトで同じのをだしてます()