チカチカと、光が瞬く。 僕は、闇夜を照らす蛍。 けれど、僕に灯る光は小さい。 僕は友人たちと遊んでいるうちに、いつの間にか人里まで降りてきてしまった。 人里には、僕たち蛍の食べられるものが少ない。 だから降りてはいけないと、何度も親の声を思い返しても、もう遅い。 舞おうとする羽も、輝こうとする光も、少しずつ弱まってゆく。 もう、僕は終わるんだろうな。 諦めに近い絶望が、心の中へゆっくりと広がっていった。 そのとき。 「ほ、ほ、ほーたるこい。こっちのみーずは……あーまいぞ?」 女性だろうか。 水を撒きながら、たどたどしい声で歌っている。 歳を重ねているような気配がするのに、その口調はどこか幼い。 「ん……。あれ、ほたるさん? ひとざとにきてくれたんだ!」 ぱあっと輝いたその顔は、僕の光よりもずっと眩しい気がした。 彼女の名は、譲葉淡香(ゆずりは・たんか)。 年は十五だという。 けれど、そうは思えないほどに幼い価値観を持っている。 彼女は、弱っていた僕を手厚く看病してくれた。 僕と彼女が言葉を交わすことはできない。 それでも、彼女が僕を大切にしてくれていることは、容易に分かった。 彼女は独り言をよく喋った。 文学にも精通しているらしく、昔の詩や物語をよく読んでいた。 「みてみて、ほたる。『ものおもへば さわのほたるも わがみより あくがれでづる たましいかとぞみる』。だって」 僕には、その詩の意味を詳しく知ることはできない。 けれど、彼女はその詩が気に入っているようだった。 寂しそうに笑っていたから。 ある日の夜。 彼女が、ぽつりと呟いた。 「ゆずに、つきがきれいだねって、いいたいなぁ」 僕でも、その意味はなんとなく分かった。 夜に、友人と月を見上げて笑いたいのだろう。 けれど、今夜は曇り。 しかも新月だから、月は見えない。 それなのに。 憂いを帯びた彼女の瞳は、まるで夜空よりも深い絶望に染まっていた。 だから、僕が助けてあげたかった。 そっと、彼女の指から飛び立つ。 彼女は驚いていたけれど、仕方がない。 僕は山へ帰り、仲間たちに協力を頼んだ。 突然帰ってきた僕に、みんな驚いていた。 それでも、僕の話を聞くと、みんな頷いてくれた。 蛍の大群が、山を飛び出す。 ある蛍は、輝く。 ある蛍は、瞬く。 そして僕は、煌めいた。 幾つもの小さな光が夜空を舞い、月光のように人里へ降り注いでいく。 僕たちの光を見上げて、彼女の顔がぱっと明るくなった。 「ゆず! みてみて! つきが、つきがきれいだよ!」 愛らしくはしゃぎ、嬉しそうに笑う彼女を見て。 僕は、救われたような気持ちになった。
ライラック/Mrs.GREEN APPLE こんばんは。月夜祭9/26日19時担当、雪城鈴です。 親に外食に連れ出され、20分遅れました。誠に申し訳ございません。 けれども「蛍の光は月のように煌めく。」楽しんでいただけたら幸いです。 お次は@yuki_yukki-さん。 小ネタと言うか設定と言うか…。(?) ・この二人は結月柚子(ゆづきゆず)と譲葉淡香(ゆずりはたんか)。手前が淡香で、奥が柚子です。 ・柚子はポニーテルですが、男です。 ・今は月といっしょに写真を取っています。柚子は恥ずかしそうですね。 ・淡香の足元に咲いている花はライラックです。淡香が好きな花なんだとか。 ・本来ならば、月が雲より前に見えることはありません。蛍たちは細かいところの再現が出来なかったようですね。 ・ついでにいうならば、月があんなに大きく見えることもありません。意外と蛍たちは大勢いたんですね。