少女Aの小説作ってみたよ くっそ長いよ 覚悟して読んで ----------------------------------- 『少女A』 イヤホンから流れる曲は、心臓のメトロノームみたいに、ずっと同じ早いテンポで頭の奥を叩き続けている。 夕方の帰り道。 私はわざとローファーの踵を引きずりながら、オレンジ色に染まったアスファルトの上を歩いていた。 長い影が地面にへばりついて、まるで私を後ろから引っ張っているみたいだった。 私の名前は、学校の名簿にも、図書カードにも、病院の診察券にもちゃんと書いてある。 だけど、学校にいるときの私は、ただの「その他大勢」だ。 先生から見ても、クラスのみんなから見ても、教室の隅にある空気清浄機と同じくらいの背景でしかない。 ニュースの事件で名前を隠され、モザイクをかけられる 「少女A」と、一体何が違うんだろう。 「宿題はやったの?」「もう高学年なんだから、もっとしっかりしなさい」 親も先生も、すれ違う大人たちはみんな、型抜きクッキーを作るみたいに、私を「良い子」の形に押し込めようとしてくる。 だけど、大人が言う「しっかり」の正体が、私にはどうしても分からない。 都合の良いときは「まだ子供なんだから」と言って味方のような顔をするくせに、都合が悪くなると「もうお姉ちゃんでしょ」と突き放す。 私の未来のため、と大人たちは綺麗に笑うけれど、その未来とやらのせいで、今の私の心はすりガラスみたいに削られて、どんどん不透明になっていく。 ポケットの中で、スマホがブブッと短く震えた。 画面を覗くと、クラスのグループチャットの通知が「99+」に膨れ上がっている。 誰かの失敗をからかうスタンプ、流行りの動画のリンク、中身のないおしゃべり。 前は、その輪からはみ出されるのが怖くて、必死で話を合わせてスタンプを返していた。 でも、最近はそれを読むだけで頭の奥がズキズキと痛む。 私は画面を裏返して、机の端っこに追いやるみたいにポケットの奥底へ押し込んだ。 暗くなった液晶画面に、自分の顔がうつる。ひどく冷めきった目をしていて、自分でも少し怖くなった。私って、こんな顔で笑っていたっけ。 私は、何色にでもなれる絵の具のパレットを持っていたはずだった。 4年生のときの図工の時間、先生は「自分の好きなように、自由に色を塗ってごらん」と言った。それなのに、いざ自由に塗ってみたら「もう少し明るい色を使おうね」と直された。 自由なんて、ただの言葉だけだ。周りの顔色をうかがって、はみ出さないように、嫌われないように色を混ぜていくうちに、私のパレットはどんどん濁っていった。 今では、何色とも言えないどす黒い泥みたいな色になって、固まっている。 私が本当に好きだった、胸の奥がときめくような綺麗な赤や青は、もうどこを探しても見つからない。 「……だれか、私の『問い』に答えてよ」 遮断機が下りた踏切の前で、ちいさく呟いてみた。 頭の中で、いくつもの「どうして?」がぐるぐると渦巻いている。どうして生きなきゃいけないの。 どうしてみんなと同じじゃなきゃいけないの。 だけど私の声なんて、電車の「カン、カン、カン」っていう冷たい警告音に、あっさりと押しつぶされて消えた。 目の前を、ものすごい風と轟音を立てて、電車の四角い窓が通り過ぎていく。 風圧で髪の毛がめちゃくちゃに揺れて、スカートがパタパタと悲鳴のような音を立てた。ガタゴトと揺れるあの窓の中にいる大人たちは、みんな死んだような目でスマ ホを見つめたり、疲れた顔で眠ったりしている。 大人になるって、こういう息苦しさを「普通のこと」だって諦めることなのかな。 もしそうなら、私は大人になんてなりたくない。 いっそ、この遮断機の向こう側に、濁りきったパレットごと全部ぶちまけてしまえたら、どれだけ楽だろう。 この一歩を踏み出して、鉄の塊に私のすべてを壊させてしまえば。 そうすれば、私はただの背景じゃなくて、強烈な「事件」として、みんなの記憶に一生消えない傷跡を残せるのかな。 「かわいそうな少女A」として、初めてみんなが私をちゃんと見てくれるのかな。 電車の音がだんだんと遠ざかっていって、あたりが急に静かになる。 遮断機がゆっくりと上がった。踏切の向こう側には、誰もいない。 ただ、世界の終わりみたいに深い夕闇が、街を飲み込もうと濃くなっていくだけだった。 私は結局、踏切を渡ることも、後ろに戻ることもできず、ただその場に立ち尽くしていた。 震える指先で、イヤホンの音量を耳が痛くなる限界まで上げる。 早くこの不快な静寂を、頭が狂いそうなほどのうるさいビートでかき消してほしかった。 私はまた、自分の名前を失ったまま、暗い夜の街へと歩き出す。
まっじで長い