404号室には誰もいない 作:独逸来賓 1章 私は生まれた時から独りぼっちだった。親の顔など見たこともない。まだ物心もない頃捨てられた。とても可哀想に見えただろうが、手を貸すような人は到底居なかった。私はある日孤児園へ連れられた。連れていったのが親か近所の人か警察かはわからないが、私には救いの手に見えた。孤児院では衣食住があった。快適な生活とは言えないが、最低限の生活はできた。まるで家畜のように思えた。周りには同じような子が沢山いた。仲良くなれるかと思ったが、誰も私には話しかけなかった。それもそうだ。無駄に背も高いが力は弱く、清潔感などなかった。その上話しかけられても無愛想なことしか言えなかった私は、ずっと独りぼっちでいた。時は流れ、教育を受け、社会人になる時が来た。ある程度のマナーと教育は受けていが、お金はなく、人との接しかたもわからない。何年も溜められてきた傷が痛む。私は物乞いとアルバイトでなんとか食い繋いできた。 2章 私はある日こんな看板を見かけた。 『ひまわり荘月額1280円。入居者お待ちしています。連絡は…』 私はとても驚いた。たったの1280円で雨風を凌げ身を隠せると言うのなら、入らない手はない。すぐさま連絡をし、後日正式に入居することになった。いざきてみると思っている以上に古いと言うことはなく、1280円など釣り合わないような場所だった。気にすることがあるとすればベランダの水たまりが酷いことくらいだ。だが奇妙なことに、部屋の番号が飛び飛びであるのだ。114号室、514号室、645号室、810号室…。私は893号室に入居することになった。思いの外中も綺麗であり、広々とした空間が広がっていた。水道も通り、電気、ガスも使える。1280円など、逆に怪しく覚えてきた。また不思議なことに、隣人、管理者の姿を見ないのだ。いつも外出中であるが、電気がつく日もある。物音もする。たまに外で見かけることはある。だが私は少し気にしただけで特に気には留めなかった。 3章 この建物には立ち入り禁止の場所があり、私は勝手に「開かずの間」などと呼んでいる。この建物は珍しいことに扉に鍵がないが、「開かずの間」には鍵がかかっているのである。よく物音がするが、電気や水道を使っていることはなかった。落ちている木を拾うと、そこが「404号室」であることがわかった。私は、どこか恐怖感を覚えた。だが、その部屋は開くことはなく、連絡をしても、 「入らないで下さい」 の一点張りだ。何度聞いても同じことを言う。さては録音なのではないか?と疑うほどに同じ声だ。ちなみに管理者は連絡をすればいつでも繋がるのだ。一体どこにいるのかは分からないが、不思議なことに、どこにいても繋がるのだ。私は別にラッキー程度に思っていた。 4章 昨日は「404号室」からの音が酷かった。部屋の中で何かが暴れ回ったり、何かを食べていたりするような音が夜通し鳴っていた。勿論その夜は眠れず、管理者に苦情を言おうとしたが、とても珍しいことに、いつまで経っても繋がらなかってのである。ツーツーツー。そんな音を聞いているうちに、夜は更け、朝は来たのである。扉を開けると思わず 「あっ」 と声が漏れた。私は目の前の光景が信じられなかったのである。 「404号室が、空いている」 「404号室」が空いていたのである。いつも閉まっていた404号室が。私の心臓の音がよく聞こえる。胸が高まる。私は一歩進み出した。また一歩、また一歩とどんどん体は「404号室」へと進んでいく。心は行くのを躊躇っているように感じたが、私は好奇心に抗えず、「404号室」へと進んでいった。 5章 中を見てみると、それは私の想像とは全く違うものとなっていた。私の部屋とは違う、とても広いフローリング。台所に風呂場、テレビまで付いている。 「なんだ、こんな部屋があったのか。」 などと思っている反面、 「なぜこの部屋だけ?」 という疑問が頭の中で混ざっていた。足を踏み出し、「404号室」の中へと入って行く。そこは誰かが住んでいるとは思えないほど清潔感のある部屋で、こんな私を小馬鹿にしているようだった。何分見とれていただろう。気が付いた時には、ソファーに腰掛けていた。住人に見られたら只事ではないと思いながらも、私の好奇心は私を部屋の奥へと引き込んでいった。 6章 いつの間にか外は夕方になっていた。こうしてみるとこの部屋の景色は中々にいいもので、私の部屋からは見えなかった景色がよく見えている。 「この部屋で、ずっと暮らしていたい」 私はそう思っていただろう。その時 「「バタン!」」 なんの音だと私が振り返った時にはもう遅かった、扉が閉まっていたのである。私はどうせ風だろうとやけに綺麗なドアノブに手をかけだが、 「ドアが開かない」 まるでドアが壁であるかのように、ぴくりとも動かなくなってしまっていたのである。この部屋から出てしまおうと窓を見た時、窓はなかった。急いで振り返ると、なんとドアが無くなっていたのである。いや、正しくは、元から無かったようになっていたのである。全て壁。私は閉じ込められてしまったのである。だが妙に私はパニックになると言ったことはなく、 「ここで暮らせるのか」 などと妙に呑気なことを思っていた。 7章 そんな事はない。私は逃げている。化け物から逃げているのである。人のようなものがこちらを見ながら進んできており、顔には薄らと奇妙な笑いが見える。一瞬ドアが見えたかと思えば、やはり壁になっている。この部屋が生きていて、私のことを揶揄って遊んでいるようだ。いや、実際そうなのだが。だがそんな呑気なことを考えている暇など私には遺されていない。私はそこらに落ちていたものを片っ端から投げつけるが、びくともせず、こちらへどんどんと近づいてくるのである。その様子は無邪気な子供のようにも見えた。 「助けて!」 私は一生懸命に逃げるが、奴は疲れる様子もなくゆっくりと近づいてくる。ゆっくりと言っても、油断すればすぐに捕まえられるような速さだ 「おかあさん…」 私ながら自分の口から出た言葉に驚いている。私を捨てた母に、私は何を求めているのだろうか。 「あっ」 私は体力を消耗して転んでしまった。間髪入れず奴は私に近づいてくる。 「やめ…」 404号室には誰もいない。これからも、これまでも。