第一章↓ https://scratch.mit.edu/projects/1388803804 第三章↓ https://scratch.mit.edu/projects/1388822321 登場人物 ・黒崎悠人 ・伊藤紬 ・その他〜 メモクレで読んでね〜! 表紙はチャッピーに頼みました! (チャッピー神すぎるっ!!!)
一 十二月 十二月に入ると、街の景色が変わった。 駅前には大きなクリスマスツリーが置かれ、商店街には赤と緑の飾りが増えた。 テレビをつければ、クリスマスソングが流れている。 コンビニに入れば、ケーキの予約を勧めるポスターが目に入る。 僕にとっては、去年までと何も変わらない冬だった。 ただ一つ違ったのは。 今年は、十二月二十四日という日を意識していたことだった。 「……あと十日」 カレンダーを見ながら呟く。 十二月十四日。 約束の日まで、あと十日。 そんなことを考えている自分が、少し恥ずかしかった。 別にデートではない。 友達と遊ぶだけだ。 そう自分に言い聞かせる。 けれど、カレンダーに印をつけようとしている自分を見て、ため息が出た。 「何やってるんだろ」 ペンを置く。 その日の午後。 いつものように紬がやってきた。 「悠人ー!」 「うん」 「寒い!」 「じゃあ帰れば?」 「ひどくない?」 「……ごめん」 「冗談だよ!」 紬は笑いながら、窓の外に立っている。 「ねえ」 「何?」 「二十四日さ」 「うん」 「どこ行きたい?」 「僕?」 「うん」 「……どこでも」 「それ一番困るやつ」 「じゃあ紬が決めれば?」 「私も決められない」 「……」 「映画とか?」 「混んでそう」 「じゃあ買い物」 「何買うの?」 「決めてない」 「……」 「じゃあ、公園」 「寒いよ」 「文句多いなあ」 「紬が聞いたんじゃん」 彼女は笑った。 「じゃあさ」 「うん」 「街を適当に歩こうよ」 「適当に?」 「そう。行きたいところがあったら行く。なかったら帰る」 「……それでいいの?」 「いいよ」 僕は頷いた。 「分かった」 「じゃあ決まりね」 「うん」 「楽しみ?」 「……普通」 「私は楽しみ」 「……そう」 「悠人は?」 「……少し」 「やっぱり楽しみじゃん」 「少しって言った」 「十分でしょ」 紬は笑った。 僕も少しだけ笑った。 その日から。 僕は二十四日を、さらに意識するようになった。 けれど。 楽しみにすればするほど。 妙な不安も大きくなっていった。 当日、何を話せばいい? 沈黙したらどうしよう。 つまらないと思われたら? 途中で帰りたいと言われたら? 考えれば考えるほど、怖くなる。 だから僕は。 前日の夜まで。 何を着ていくかすら決められなかった。 二 クリスマス 十二月二十四日。 朝から雪が降っていた。 積もるほどではない。 空から白いものが少しずつ落ちてくる。 僕は昼前に起きた。 鏡を見る。 髪を整える。 服を選ぶ。 黒いコート。 白いシャツ。 ジーンズ。 何度も鏡を見る。 「……普通だよな」 誰に確認しているのか分からない。 昼過ぎ。 スマートフォンが鳴った。 『駅前いるよ』 紬からだった。 心臓が跳ねる。 『今行く』 送信。 玄関へ向かう。 靴を履く。 ドアを開ける。 冷たい空気が顔に当たった。 僕は一瞬、足を止めた。 外へ出る。 それだけのことなのに。 今日は、少し違って感じた。 駅前へ向かう。 人が多い。 家族連れ。 カップル。 学生。 みんな楽しそうだった。 僕は人混みが苦手だ。 それでも今日は。 帰ろうとは思わなかった。 「あ!」 紬がいた。 駅前の時計台の下。 茶色いコートを着て、マフラーを巻いている。 僕に気づくと、手を振った。 「悠人!」 「……待った?」 「今来たところ」 「そっか」 「寒いね」 「うん」 「じゃ、行こ」 「どこへ?」 「分かんない」 「……」 「まず歩こう」 「適当だなあ」 「いいの」 僕たちは歩き始めた。 商店街にはクリスマスの飾りが並んでいる。 店先にはケーキ。 洋服店には冬物。 雑貨店にはプレゼント。 紬は、目についたものを次々に見ていった。 「これ可愛くない?」 「……そう?」 「可愛いよ」 「紬が使うの?」 「うん」 「じゃあ買えば?」 「高い」 「……」 「だから見るだけ」 紬は笑った。 その笑顔を見ていると。 僕も楽しくなってくる。 昼過ぎ。 僕たちは小さな喫茶店に入った。 「何頼もうか」 「……コーヒー」 「高校生なのに渋い」 「紬は?」 「ケーキ」 「甘いの好きなんだ」 「大好き」 ケーキが運ばれてくる。 紬は嬉しそうにフォークを入れた。 「美味しい!」 「よかったね」 「一口いる?」 「いい」 「遠慮しなくていいのに」 「本当にいい」 「じゃあ私が食べる」 「うん」 そんな会話をしていると。 不意に紬が言った。 「悠人」 「ん?」 「今日、楽しい?」 「……うん」 「本当に?」 「うん」 「よかった」 紬は嬉しそうに笑った。 その顔を見た瞬間。 僕の胸が、また変な音を立てた。 僕は目を逸らした。 「……どうしたの?」 「何でもない」 「顔赤いよ」 「寒いから」 「店の中、暖かいけど」 「……」 「またそれ?」 紬が笑う。 僕は何も言えなかった。 夕方。 外に出ると、雪が少し強くなっていた。 「わあ」 紬が空を見上げる。 「積もるかな」 「どうだろう」 「積もったらいいね」 「なんで?」 「雪合戦できるから」 「子供?」 「楽しいじゃん」 紬は手を伸ばした。 手のひらに雪が落ちる。 すぐに溶けて消えた。 「ねえ、悠人」 「何?」 「来年も一緒に遊ぼうね」 「……」 その言葉に。 僕は少しだけ驚いた。 「来年?」 「うん」 「……約束?」 「約束」 紬は小指を出した。 「指切り」 「子供じゃないんだから」 「いいじゃん」 僕は少し迷ってから。 自分の小指を絡めた。 「……約束」 紬が笑った。 「絶対ね」 「うん」 その帰り道。 僕はずっと、その言葉を考えていた。 来年も。 同じ場所で。 同じように。 紬と一緒にいられる。 それは、当たり前のことだと思っていた。 その時の僕には。 未来がずっと続いていくように見えていた。 三 疑い 年が明ける直前。 十二月三十一日。 僕は家で一人、テレビを見ていた。 除夜の鐘が聞こえる。 年が変わる。 スマートフォンを見る。 紬からメッセージが届いていた。 『あけおめ』 僕は返信した。 『あけましておめでとう』 少し考えて。 『今年もよろしく』 送信。 すぐに返事が来る。 『こちらこそ!』 『初詣行かない?』 僕は画面を見つめた。 『いつ?』 『明日、というか今日?』 『急だな』 『だめ?』 少し迷って。 『いいよ』 返信した。 翌日。 一月一日。 僕は神社へ向かった。 去年までなら、初詣なんて行かなかった。 人が多いから。 寒いから。 面倒だから。 理由はいくらでもあった。 でも今年は。 紬がいる。 「悠人!」 鳥居の前で、紬が手を振っていた。 「おはよう」 「もう昼だけど」 「……おはよう」 「遅い」 「ごめん」 「いいけど」 二人で境内へ入る。 人が多い。 僕は少し緊張した。 紬がそれに気づいた。 「大丈夫?」 「うん」 「無理だったら言ってね」 「大丈夫」 そう言ってくれたことが嬉しかった。 参拝を終える。 紬がおみくじを引いた。 「どうだった?」 「……末吉」 「微妙」 「悠人は?」 「小吉」 「もっと微妙じゃん」 「……」 二人で笑った。 そのあと、屋台で焼きそばを買った。 紬は食べながら言った。 「ねえ」 「ん?」 「悠人ってさ」 「うん」 「最近、変わったよね」 「……そう?」 「うん」 「どこが?」 「前より外に出るようになった」 「……」 「前は、私が来てもずっと窓から話してたじゃん」 「そうだったね」 「今はこうして一緒に歩いてる」 「……」 僕は何も言えなかった。 確かにそうだった。 少し前まで。 外へ出ることは、僕にとって大きなことだった。 今でも得意ではない。 でも。 紬と一緒なら。 少しだけ平気だった。 「紬のおかげかな」 口に出してから。 恥ずかしくなった。 「え?」 「……何でもない」 「今、何か言ったでしょ」 「言ってない」 「言った」 「……」 紬が笑う。 「まあいいや」 そして。 「でも、嬉しい」 そう言った。 「何が?」 「悠人が外に出てくれるようになったこと」 「……」 「私が誘ったからじゃなくて」 「え?」 「悠人自身が、出てみようって思えるようになったなら、それが一番いいから」 僕は、その言葉を聞いて。 少しだけ胸が熱くなった。 帰り道。 紬は突然、立ち止まった。 「どうしたの?」 「……何でもない」 「?」 彼女は少し苦しそうな顔をしていた。 けれど、すぐに笑った。 「帰ろ」 「うん」 僕は、その表情を忘れられなかった。 家へ帰ったあとも。 ずっと考えていた。 紬は何かを隠している。 そんな気がした。 病院。 体調。 時々見せる苦しそうな顔。 学校を休む日。 そして。 「来年も一緒に遊ぼう」と言ったときの、ほんの一瞬の沈黙。 僕は、初めて疑った。 もしかすると。 紬には、僕の知らない何かがあるのではないか。 でも。 聞けなかった。 聞くのが怖かった。 もし聞いて。 何か大切なものを知ってしまったら。 今まで通りではいられなくなる気がした。 だから。 僕は何も聞かなかった。 冬休みが終わる。 一月の最初の週。 紬はいつものように僕の家へ来た。 「寒い!」 「入れば?」 「いいの?」 「……外にいるよりは」 「じゃあお邪魔します」 紬が玄関から入ってくる。 僕の部屋ではなく、リビング。 母が帰ってくるまで、そこで話すことにした。 「悠人の家って静かだね」 「そう?」 「うん」 「紬の家は?」 「うるさいよ」 「兄弟いるの?」 「弟が一人」 「そうなんだ」 「生意気」 「仲良い?」 「まあね」 「いいな」 「悠人は?」 「一人っ子」 「そっか」 紬は少し黙った。 「……何?」 「ううん」 彼女は笑った。 それから。 ふと窓の外を見る。 「もうすぐ三年生だね」 「……うん」 「クラス一緒になったらいいね」 「そうだね」 「一緒になったら、毎日話せる」 「今も毎日話してるけど」 「学校で話すのとは違うじゃん」 「……そうかな」 「そうだよ」 紬は笑った。 「楽しみだね」 「……うん」 僕も笑った。 けれど。 そのとき。 僕の中には、また一つの疑問が生まれていた。 僕は、どうしてこんなに。 紬と同じクラスになりたいと思っているんだろう。 どうして。 紬が誰かと話していると、少しだけ嫌な気持ちになるんだろう。 どうして。 紬が僕以外の誰かと楽しそうにしていると、胸の奥がざわつくんだろう。 それは。 友達だからなのか。 それとも。 別の何かなのか。 僕には分からなかった。 だから。 また否定した。 違う。 そんなわけがない。 僕が紬を好きになるなんて。 そんなこと。 あるはずがない。 だって。 僕と紬は。 ただの友達なのだから。 ――そう思っていた。 春が来るまでは。