本文 数十分後、前方の扉から先生が入ってきた。 これまで——特に高1のとき——の担任はクソ以外のなんでもなかったが……コイツならもしかすると……? しかし、数秒後、僕のもはや願望にまで発展した予想は見事に砕かれていた。 「おい、貴様ら。俺が1-5の担任を1年間務める森崎明人だ。出席番号1番から順に自己紹介。1人あたり1分半まで。超えた場合は罰として筋トレ3時間だからな」 高1のときのより鬼畜かもしれない。 というか、筋トレ3時間って流石に度を超えすぎた体罰じゃないか? 彼が教卓に座ると生徒の自己紹介の番だ。 「佐山達人です。剣術値4の雑魚です。普通の佐藤家の家系ですよ」 「4」で雑魚だと? お前の2つ後ろに「1」がいるぞ! 「澤村茂。『5』なので一応白夜剣術くらいは……はい」 次、僕の番だ…… 終わった…… 「伊藤光一郎です。本当に単なる『1』なので私にはあまり干渉しないでいただけると幸いです」 ああ…… 席に戻ろうとすると、担任に話しかけられた。 コイツ、干渉するなと言った数秒後に…… しかし、その内容は意外極まるものだった。 「伊藤、自分を下げすぎじゃねぇか? まあ、ある程度の才能が必要かもしれんが、人格がしっかりしてれば後はどうにでもなる。俺が貴様を合格にした理由はこれだぞ。自信持てよ、貴様も1人の人間だろう」 「……はい」 「貴様らも彼のことを少しは知れ。十数年間奴隷以下の扱いを受けてきたんだ。自分が気遣いもできない人外だと言われて反論したくなる奴は少しくらい気を遣え。次」 次は例の殺気男の番だ。 「天崎玲、『13』。諸事情で常にイライラしていますが気にしないでください」 彼——天崎からはいつのまにか負の感情が消えていた。 「若松綾香、中等部から。古代剣術が専門です」 若松の自己紹介が終わると、1限があと数分で終わろうとしている頃だった。 「一旦解散。約10分後に再集合するように。遅れたら筋トレ3時間をやってもらう。以上」 どうせ僕は3年間孤独で過ごすことになるだろう……。 ム? 足音が…… いやいや、俺に近くの人の席に向かっているに決まっている。 ——そんなことをぼんやり考えながら窓の外を眺めていると、隣から声がした。 「えーと、……伊藤光一郎君だっけ……?」 ぎいいやああああああっ!!! 危うく心臓が飛び出すところだった…… いや、心臓が飛び出すどころでは済まなかったかもしれない。 「確か、君は……」 声がした方には、榎本とは違う黒髪の男が立っていた。 「10番の河木悠仁だよ」 「け……剣術値は?」 「6だけど……なんでそんなこと気にするんだい?」 河木が不思議そうに聞き返してきた。 「いやあ……今まで誰かとまともに話したことなかったから……まず何を言えばいいのかわからなくて……」 すると、河木の表情は納得したような表情になった。 「そうか。剣術値1の人は社会から人間扱いされないからね……でも、僕はそんな酷いことしないよ」 「えっ!?」 「もちろん君も一人の人間だ。友達になろうよ」 そう言った河木の笑顔は、自分の語彙力の低さを呪いたくなるほど素晴らしく、明るく、優しく、眩しく、……。 もう河木が「自分は神だ」などと言い出していても信じていただろう。 気づくと、僕は泣いていた。 「何……泣いてんの??」 「こんなに……人に優しくされたの……初めて……だから……」 こうして、僕の一人目の友人ができた。 彼の命を、そして何より彼が価値を認めてくれたこの命を、ずっとずっと守っていこうと思った。
ジャンル:SF あらすじ:西暦23世紀、某国の研究機関が生物兵器を開発した。 直後に始めた隣国への侵略にそれを投入したが、突如としてそれは暴走。 生物兵器は設定された五年間の寿命が尽きるまで力の限り暴れ続けた。 生物に消されたモノは生命や歴史的な宝物だけではない。 兵器。 自然。 あらゆるモノの製造法。 発明の可能性……。 ——ただ一つ、「刀剣」を除いて、全てが消し去られた。 自然崩壊した国連に代わり地球を統べる腐敗しきった政府とそれに対抗する無数の反政府武装組織とが乱立する社会では、「剣術」で全てが決まる。 名家当主の長男坊でも剣術がなければ軽蔑の視線を注がれ、逆を言えば人格が破綻した大罪人の末っ子でも剣さえ扱えれば周囲からは一目置かれる。 ——そんな世界になって300余年、彼は生まれた。 ©青井おばけ@Aoiobake ▼カクヨム版(公開文字数:約2.4万字) https://kakuyomu.jp/works/11054822662665449247 ▼前 https://scratch.mit.edu/projects/1392671604/ ▼次 未公開です ▼スタジオ https://scratch.mit.edu/studios/52073577