http://scratch.mit.edu/get_%69mage/project/1394067886_991x991.l 「――立ちなさい!!」 声が、ひび割れたナツキ・スバルを殴りつけ、叩きのめし、ぶちのめす。 容赦もなく、躊躇いもなく、怒号がナツキ・スバルを割り砕いて、そのひび割れを加速させていく。――まるで、剥き出しの心へと無造作に爪を立てるように。 「立ちなさい!」 青い髪の少女が、スバルに向かって声を上げる。 スバルを睨みつけて、少女が声高に吠える。吠える。吠えている。 膝をついたまま、少女を組み敷き、呆然とした顔に亀裂を生む、ナツキ・スバルを。 「立ちなさい!!」 繰り返される、怒号。 何度も何度も、それはスバルの心を非情に、手加減抜きで打ちのめす。 何故、そんな言葉をぶつけられなければならない。 痛いのだ。苦しいのだ。辛いのだ。悲しいのだ。心は今にも張り裂けそうだ。 人生で、こんなにもキツイ決断を、心の準備なしに次から次へとぶつけられることなどそうそうない。――そんな苦境を、何故と嘆くことはやめたのだ。 だからせめて、結論を出した。だから、もう、いいじゃないか。 「立ちなさい!」 弱音が、頑なな結論が、喪失に怯える心が、スバルの心を竦ませるのを、目の前の少女は決して良しとしない。断固、拒絶の意思を込め、力強く言葉を重ねる。 決断したのだ。肯定してくれてもいいだろう。せめて、悩む素振りぐらい見せてくれ。いいじゃないか。もう十分悩んで。なのに、彼女は何故、こうもスバルを。 「立ちなさい――!」 割れ砕ける心のままに、決断するスバルを、許してはくれないのだ。 「立ちなさい――!」 まだ、言うのか。 何故なんだ、この声は、少女は。 こんなにも辛いのに、苦しいのに。 「立って……! 立って! 立って! 立ちなさい!」 誰なんだ、この少女は。 思い出のどこにいるんだ、この少女は。 言葉を交わしたこともない。思い出だって、今のスバルの中にはない。 誰なのか、どんな相手か、上辺しか知らない相手だ。 踏みとどまる理由になんかなり得ない、そんな関係だ。 それなのに、どうして、どうしてこの胸はこんなにも熱い。 どうして、胸の奥から、込み上げてくる熱があるのだ。 「立ちなさい、ナツキ・スバル! 立ちなさい! ――レムの英雄!!」 記憶にいない少女の涙声、その声に英雄であれと叫ばれて、心が震える。 そんな馬鹿な話があるものかと、笑いたくなるほど調子よく、スバルの心が震える。 亀裂が、ひび割れが、加速していく。 それは文字通り、ナツキ・スバルに『ナツキ・スバル』の殻を破らせる光景。 だが、その殻の内側に眠るものは、直前のそれと、わずかに変わる。 ――否、本当に変わるなら、それは、ここからだ。 立ちなさいと、望まれるままに、怯える心を噛み砕いて、立つ。 「立ち上がれたなら、いってください。いって、救ってきて、全てを」 全てって、なんだ。全てって、なんなのだ。 ぼんやりした言い方すぎる。全てって、いったい何のことなのだ。 「全ては全て。何もかも。全部、全員、自分も、最も身近な他人さえも!」 なんだ、それは。 できるのか、そんなことが。できると本気で思っているのか、この娘は。 こんな、色んなものの足りない、自分さえも救えない、自分に。 スバルが好きになった人たちのために、スバルを大切にしてくれる人たちのために、スバルが大切にしたいと思えた人たちのために、失われたくない人たちとの思い出のために。 たった一つを手放そうとしたスバルにも、できると本気で思っているのか。 「やれますよ。だって」 だって。 だって、なんだ。 力を、答えをくれ。くれるのならば、その言葉で。 願わくば、青い少女の、君の言葉で、俺に――。 「――スバルくんは、レムの英雄なんです」 Re:ゼロから始める異世界生活 作者:鼠色猫/長月達平 第六章 『記憶の回廊』61話 『――立ちなさい』 アニメ4期 13話「立ちなさい」