http://scratch.mit.edu/get_%69mage/project/1394799645_991x991.l 「……そう。でも私、スバルにエミリアたんって呼ばれるの、嫌いじゃないわ」 「スバル……?」 レグルスが聞き捨てならないと、その名前に不愉快そうな色を浮かべる。 だがエミリアは、目の前のレグルスの表情の変化を無視して続ける。 「エミリアたんって呼んでくれる声に、スバルの気持ちが詰まってる。たまにエミリアって呼び捨てにされると、特別なときだってすぐにわかる。それが無駄なことなんて全然思えない。名前って、そういう想いが込められるはずだもの」 「あのさ、勝手に話が進んでるけど、スバルって誰のこと? 人の名前だよね? っていうか男の名前だよね? これから結婚しようって女の子が、夫にしようって相手の前で違う男の名前を出すってのはいくらなんでも常識がないんじゃないの? たとえ大した関わりのない相手でも傷付くよね。傷付けてるよね。わかる?」 「大した関わりのない人なんかじゃないわ。スバルは私のたった一人の騎士で、私のことを好きだって言いながら名前を呼んでくれる人」 「――はぁ!?」 エミリアの答えに、レグルスの鬼気が膨れ上がる。 その動作に百八十四番も、他の妻たちも即座にその場からの離脱を試みた。 しかし、 「動くな!! 動いた奴の、首から下を消し飛ばす」 「――――」 「弁明を聞こう。言葉に気を付けて、勘違いさせないように全力で配慮してほしいな。僕はこの結婚式を、誰かの葬儀にするつもりはないんだ。わかるだろ?」 わなわなと肩を震わせながら、レグルスが感情を押さえつけた声で話す。 レグルスに牽制されて、列席者たちは動けない。だが、エミリアはその膨れ上がる鬼気を、変わらぬ穏やかな表情で迎え撃った。 「結婚は好き合ってる男の人と女の人がするもの。だけど、私にはその資格がまだ全然ないの」 「――――」 「だって私、男の人を女の人として好きになるってことがわかってない。だから、スバルがあんなに私のことを好きだって言ってくれてるのに、スバルが求めてる答えを肯定も否定も返してあげられない。それってすごーくひどいことで、スバルを傷付けて困らせてるのもわかってる。でも」 黙り込むレグルス。しかし、エミリアの心は彼に向いていない。 はっきりと誰もが理解している。エミリアの眼中に、彼がいないことを。 「まだ人を好きになるってことがわかってない私だけど、きっといつか誰かのことを好きになる。誰かのことをきっと、女の人として愛する。そしてそうなったとき、誰のことを好きになるかはもう決めてるの。だから」 息を継ぎ、レグルスを見据えて、エミリアは言った。 「――私は、あなたのものにはならないわ」 「――っ! ああそうかい! 僕も、君みたいな勝手な浮気女を妻にするつもりなんてなくなったよ! せいせいするなぁ!!」 エミリアの断言に、レグルスが顔を赤くして激昂する。 怒りのままに指先を伸ばすレグルスに、エミリアは全身から魔法力を迸らせて迎撃の構えに入る。原理のわからない破壊に、まずは最初の合わせを――。 「――!?」 互いの攻撃が始まろうとした瞬間、激しい音が聖堂の中に響き渡った。 音はすさまじい勢いを伴い、弾丸のように吹き飛ぶ物体でレグルスを直撃する。白いタキシード姿のレグルスの全身を打ったのは、衝撃に飛び散る木製の扉――修繕されたばかりだった、聖堂入口の大扉の一枚だ。 それが入口側から吹っ飛び、レグルスを襲ったのだった。 そして、 「お前、せーので蹴ったのに結果が全然違うじゃねぇか。どういう脚力だよ!」 「すまない、加減ができなかった。ちゃんと当てる相手は選んだから、それでよしとしてくれないかな」 「助けに入ったときの格好よさが段違いになるだろ? 俺の蹴りがドア開けただけなのに、お前の蹴りは敵を直撃って……」 ぶつくさと言い合いながら、聖堂の中に二人の人影が現れる。 それは黒髪の少年と、赤髪の青年の二人だ。 エミリアが目を見開き、正面にいるレグルスが虫を払う仕草で木片を取り去る。無傷のまま、しかし不機嫌を宿した目で彼は侵入者二人を睨みつけた。 「神聖な結婚式に横紙破りなんていい度胸じゃないか。招待客に男の名前があった記憶はないんだけど、どこの誰でどんなお祝いを持ってきたのかな? なぁ?」 レグルスの恫喝に、入口の二人が顔を見合わせる。 それから頷き合うと、 「パートナー精霊不在の精霊騎士、ナツキ・スバル」 「『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」 名乗り、ラインハルトが前に出る。 その横でスバルはエミリアにウィンクし、レグルスを指差して言った。 「この結婚式に物申すってな。――その花嫁、さらわせてもらうぜ」 Re:ゼロから始める異世界生活 作者: 鼠色猫/長月達平 第五章 『歴史を刻む星々』48 『いつか好きになる人』 アニメ53話