~1~ 今年も、春になった。 ここ、虹ヶ崎中学校では、中学1年生や2年生が進級…。はしたのだが、もちろん、性格自体が進級した訳ではない。 一番それに当てはまるのは…。やはり、カオルだろうか。 カオルは中学1年生の頃から、あれこれとやらかしまくっている、いわゆる「不良」で、みんなから避けられていた。 カオルは、普通はダメな事を、 「校則に無いから」 と言ってやりまくっている。 「何〜?ダメって書いてあるの〜?それ校則の何番目にあった〜?」 「いや、無いけど…。」 「ほら〜やっぱり。無いのにダメなの?」 「そ、それは…。」 屁理屈ではあるものの、カオルが何かを言えば、皆、何も言い返せないのだ。 今年、運が悪いのは…。 2-3だ。 「げぇっ、あのカオルが何で同クラなんだよ!」 と、誰かが言った。 「はい〜?文句ある〜?」 相手も分からぬままに、カオルはそう返す。 カオルは、1年の頃は2組だったが、噂は学年中…。いや、学校中に広まっていた。 カオルの近所の人達も、 「カオルちゃんは、関わらない方がいいわよ」 と言われているのか、誰もカオルと話さない。 教室の黒板には、 『進級おめでとう』 何て書いてあって、その下に 「8:40に体育館に集まる」 とある。 用意を終えた人達は、早めに教室を出る。 そして、廊下を歩き、体育館へ向かっている。 しかし、カオルは…。 「ギリギリまでゆっくりと用意すれば良いじゃん」 と余裕のある表情を見せる。 体育館では、校長の 「つまらない話」 がずっと続く。 「これ、いつ終わるのよ」 とカオルが文句っぽく独り言を言う。 「綺麗事ばっか。『みんなで仲良く』なんて、出来るの?」 カオル以外は、「きちんと」話を聞いていたので、この愚痴は、誰にも聞こえていなかったらしい。 そして、この「つまらない話」が終わり…。 「それでは、担任を発表していきます」 と、校長の言う声。 「うげぇっ。まぁ誰でもいいけど」 と、同じ学年らしい男子が言った。 「まずは、1年生です」 1組、2組、3組…。と発表されて行く。 そして、呼ばれた先生達は、そのクラスの列の前に立つ。 「次は、2年生です」 「来たーっ!!!」 と2年生の騒ぎ声が響く。 「2年1組、森野(モリノ)先生」 「やったー!!」 という1組の声。森野は、とても優しい先生で知られているのだ。 「森野先生に当たればその1年間が当たり」 という言葉も、学校中で言われている。 「2年2組、有田(アリタ)先生」 「ふぅーっ」 有田は、「普通」よりは優しいので、2組が助かった様な声を上げる。 そして、いよいよ3組…。 「2年3組、黒田(クロタ)先生」 「げっ」 と誰かが声を上げた。黒田は、「虹ヶ崎中一の鬼教師」と呼ばれる程、厳しくて怖いのだ。 カオルだけは、 「ふーん」 といった感じで、落ち着いている。 他のクラスや、3年生の担任発表も終わり、始業式は終わった。 教室に戻ると、凄い量の教科書が置かれている。 「ヤバいね」 と、誰かが言った。 その時、 「名前順で、取りに来い」 と、黒田のおっかない声が聞こえた。 1番の人が、 国語、数学、社会、理科、英語…。 全ての教科書を取り、自分の席に戻る。 1番の人が社会を取った頃、2番の人も来て、順番に取って行く。 そうして、スムーズに教科書を取り、全員が席に着いた…。 と思ったのだが、 「全部1冊ずつ余ってるぞ…。宮野!!早く、取りに来るんだ!」 と黒田の声が響く。 「は〜い」 とカオルが席を立ち、ゆっくりと全部を取る。 「名前は今日、家で書いて来い。宿題にする。」 「ひえーっ、これ全部持ち帰るの〜かっ」 と男子の声。 「そうだ。とにかく持ち帰れよ!」 「はーい」 とテンションの下がった声が揃って聞こえる。 今日は短縮日課だったので、4時限目で終わりだ。 「さようならー」 とクラスメイトが揃えて言い、帰って行く。 カオルもだ。 「ただいまー」 とカオルの声が響く。 カオルの「何でもアリ」の日々は、この次の日から始まる事になる。 ~2~ カオルは、席は後ろの方。 でも、視力は右0.3、左0.4。 ハッキリ言って、とても低い。 そのくせ、眼鏡をかけていないから…。 最悪だ。 クラスメイトは、 「じゃあかければ」 と聞くが、 「めんどい」 と、カオルは返す。 「だからだよ」 「何が『だから』なのよ」 カオルとクラスメイトの会話が続く。 「あはは」 とみんなが笑う。 みんな、少しずつ帰って行く。ホームルームも、とっくのとうに、終わっている。 「思ったんだけど、カオルっていつから不良になったn…。」 「それは、言わないでおけ」 「あぁ、そうか」 「…。」 前の席に座っている一人が、 「カオル、あんな後ろで大丈夫なのかな」 と言う。明美(アケミ)だ。 「ほっとけ、あんなの」 「ちょっ、それ黒田センセに聞こえたらヤバくな…。」 「問題無い」 「げっ!!」 「確かに、宮野は放って置いてでもしないと」 黒田に共感されたクラスメイトが、少し気味悪がって廊下へと出る。 「カオル、どうするの?」 とアケミが聞くと、 「知らない」 とそっけない返事をして、カオルは廊下に出た。 カオルは、「眼鏡って、性に合わない」 と言って、家に帰った。 しかし、次の日…。 「あれっ、カオル?」 眼鏡をかけている。 「いや、お母さんにかけろって言われたから…。」 みんなが、ワイワイとカオルの周りに集まる。 「意外だなぁ」 とアケミも見ていた。 5月が始まろうとしている。初夏の匂いが教室にも流れて来た。 ~3~ 7月になって、わーい、そろそろ夏休みだー、なんてワイワイしているのはカオルだけ。 カオルは中学2年生であったが、その名は学校中に知られていた。 特に、中学1年生の間でだ。 カオルは中学1年生の女子達の中で「絶対にそうはなりたくない先パイ」No.1。 「カオルって、中1から嫌われすぎ〜。逆にどうやったらそうなれるの?」 とカオルのクラスメイトは口々に噂をしている。 でも、カオルはちっとも気にしていなかった。 カオルは女子だが、色々男子っぽい。 それどころか、男子を超えている。 という事は、学校のほぼ全員が分かっている。 ケンカには超強くて、男子をも打ち負かす程だ。 だから男子は、 「カオル、サイキョーすぎっ」 「マジで終わったわ」 などと言って、誰もカオルに近づかない。 校則なんて毎日破っているし。 「宮野!今日もまだスカートの長さを直していないのか!」 「何で短くしちゃダメなんですか?第一に元々、これくらいの長さですけどー」 などと、先生に向かって嘘をつきまくっている。 「今から生徒指導室に来い!」 と、黒田が声を荒らげた。 クラスメイトは、怖そうにその様子を眺めている。 しばらくして、カオルと黒田が戻って来た。 「今日は、反省文5枚な!」 そう言い捨てて、黒田は職員室へと向かった。 「大丈夫?」 カオルの事を気にしてくれるのは、未だ、アケミだけ。 そのアケミにさえ、カオルは 「大丈夫。っていうか毎日毎日しつこい」 と、冷たい態度。 「あんなに優しい子、他にいないのに…。アケミ、かわいそーだよね」 と周りはカオルに対しての遠回しな文句を言っている。 「カオル…?」 アケミが悲しそうな目をして、自分の席に戻る。 「あーあ。またこうなっちゃった」 と周りが続けた。 一方、中学3年生でも問題は起きる。 生徒会長の浜田 勉(ハマダ ツトム)は、 「カオルを連れてこい!校則を破ったらどうなるのか思い知らせてやる!」 といつも言っているが、副生徒会長は、 「やめた方がいいっすよ。カオルは、スゲーケンカに強いらしいし…。」 と引き止めている。 その都度、 「ああ?じゃあ、今回はやめておくか…。でもいつかは…!」 とツトムは悔しそうに言う。 「毎回、このパターンじゃん…。」 と、生徒会委員達は言っているのだが…。 今日、ついにツトムが本気で怒って、 「今回は絶対にカオルに校則を破ったらどうなるのかを思い知らせてやる!意地でも連れてこい!」 と言った。 「えぇ…。じゃあ分かりました…。」 生徒会委員の一人がそう言って、中学2年生の教室へと向かう。 「確か3組だったよな…。」 と3組へ向かう。 3組のクラスメイトは 「あぁ!また鬼教師が来たよ!」 と揃えて言う。 しかし、アケミだけは、 「違う。多分生徒会の人だよ」 と冷静に言った。 「まさか、足音で分かるの?よくそうゆーのあるけど、マジでそういう人って初めて見たわ笑」 とクラスメイトの誰かが、ばかにした様に言う。 しかし、アケミの予想は当たっていた。 「カオルさん、生徒会長が今すぐ来いって言ってました〜」 と生徒会委員が言う。 カオルはすぐに反応して、 「ほーら。いつかはこうなると思ってた」 と驚きもせずに言う。 「行ってくるねー。まぁ、すぐ戻って来るけど」 とだけいって、カオルは教室を出て生徒会員について行く。 「カオル…?」 アケミがまたしもそう言う。口グセになっているのだ。 ツトムは 「カオル、お前は毎日毎日校則を破っている!そんな事はダメだって事くらい、分かるだろ!もう小学校低学年でも無いのに!」 とまくし立てる。 するとカオルは 「はいー?破ってますけど何かー?」 と言った。 ツトムは (何だ。あれほどウワサが立っていたのに、対してケンカに特別強くもないじゃないか。) と油断して 「校則を破るのは違反だよな!そんな事も知らないのか!先生に言うぞ!ふざけるのはやめろ!」 と脅したが、カオルは平然と、 「『先生に言う』??脅しても意味ないですよー笑」 と言い返す。 「脅しじゃない!とにかく校則を破るのはやめろ!俺が言いたいのはそれだけだ!」 とツトムがもう言い合いを終わらせるかの様に言ったが、しぶといカオルは、 「『俺が言いたいのはそれだけだ』??じゃあ最初からそう言えば良かったじゃん笑」 と挑発する。 「何だって!もう一回言ってみ…モゴッ!!」 副生徒会長が、 「この位にしときましょうよ会長〜汗」 とツトムを制する。 「…フンッ!とにかく校則は守れよ!帰って良し!」 「わーい」 そういってカオルは教室へ戻る。 廊下をどんどん進んで行くカオルは、さっき自分がツトムと言い合いをしていた時に、ある事に気が付いた。 「口答えしても、自分が変わらなければ、もちろん相手も変わらない」 ーと。 そこでカオルは決めた。 (去年の分の内申点や、クラスメイトからのイメージはどうしようもないにせよ、今年はまだ半分もあるのだから、出来る範囲で真面目になろう。) カオルが教室に戻って来た。 「あ、カオル、お帰り」 と、アケミは言った。 「まぁ、ただいま」 カオルの事を、クラスで一番知っているアケミは、すぐに気が付いた。 (カオルが返事をするなんて、初めてだ...。) もしかしてカオルは、何らかの理由で、改心でもしたのではないかー。 アケミの予感は、的中した。 その日のカオルは、授業中にあまり騒いでいなかったのだ。 「喉が疲れたんだよ」 と、自分では言っていた。 でも、アケミには分かった。 (間違いない、あれはただの照れ隠し。カオル、偉いなぁ) カオルを見守り続けた甲斐があったー。 と、アケミは嬉しくなった。
そして、夏休みまで残す1週間…。 休み時間に、 「やったね」 と、カオル。 「あと1週間、しっかりしろよ?」 と男子。 「まー、分かってるよ」 「そう言ってもやらないくせに」 「はぁ〜?」 最近、カオルはクラスメイトと良い感じだ。 それを遠巻きに見ているアケミも、嬉しそうな表情を浮かべていた。 クラスの男子の一人も、 「カオルって最近、何かチョーシ良いよな〜」 と、言う。 「...ふふふ」 「何だ、アケミ?どうしたんだ?」 「内緒」 「えぇーーー」 その日の授業は、とても良い物であった。 カオルが先生に言い返したり、言い合いになったりする事が、一回も無かったからだ。 「何だよ、カオル、やれば出来るじゃないか」 と黒田も言う。 急に態度が変わった黒田を、クラスメイトは、少しおっかなげに見ている。 「カオル、意外〜」 と女子が口々に言い、 男子も、 「すげー」 などと、色々言っていた。 その途端、カオルは男子の方に振り向いた。 「やべっ」 と言ったが、カオルは意外な事を言った。 「残す1週間は、しっかりするよ。もう生徒指導室は飽きたし」 カオルには、それまでには無かった、笑顔が浮かんでいた。 【終わり】