#sf 「標は遥か遠く」 オリゴ建国幾年目を記念する糖国祭、例年に比べ今回は極めて大規模なものが展開された 始動が決定された軌道エレベーターのプロジェクト公開やヴェンダ群島中心に建設されたメガフロートの公開 そして2代元首スクラッチアの辞任 様々な出来事と式典、イベントが殺到した 男、スティーブはそんな喧騒から離れ野原に佇む 彼は自身の敬愛する師たるレーヴェらが唐突に離れるということに動揺を隠せていなかった 彼と師は常にその背を追う関係であり、存外親密な関係であった そんな自分に何も言わなかった師の素振りにセンチになっていたところである 思えば追いはするものの一度たりともその影に届いたためしは無かった 自分と師はその程度の関係でしかなかったというのか そう悲観したそこに強い風が吹き込んできた 突風に周囲の花々は巻き上げられ一面には花が舞い散る そんな中彼の頭上を巨大な影が過ぎる 一見すればオリゴに数ある人型兵器、しかしオリゴの中で最も人型兵器に精通する彼が見たことすらない、白亜の不思議な機体であった 1つの無駄もないギリシア彫刻が如き美しさと、能面を思わせる淡白な面に巨大な角 何処か悪魔を思わせる造形も混在していた 元来悪魔というモノは人を惹き付ける魅力を持つという、眼の前を過ぎゆくアレもまたそういうものなのだろうか ソレは時間にして文字通り一瞬、こちらを一瞥するように過ぎたあと、急激に機動し瞬きの間に遥か天空の彼方へ昇っていった 「…………はっ!」 あまりに唐突な出来事に呆気にとられた彼であったが、その機体に乗る人間が誰か、大空に昇るその姿を見て見当がついたようである そうして笑みをこぼすとともに自身を遥か地の片隅に置き去りにしていく天空の化身に呆れる 「ここまで来てみろって…ことかよ」 今は遥か彼方に居る道標に、先まであった不安や慟哭の衝動は欠片も残らず払拭され 見上げる空はどこまでも澄み渡っていた