#月更新 #ファンタジー小説 #古典文学 著:雅 桜麗 絵: 未定 募集します 3:https://scratch.mit.edu/projects/934072926/ 5:〜少女執筆中〜
*。・*。・*。・*。・*。・*。・*。・*。・*。・*。・ 紫央奈はそこで回想をやめた。 結局全て思い出すまで思考は、感傷は、紫央奈を解放してはくれなかった。 傷付いてはいられない、傷付くものか。 そう思っていても、少しだけ胸の奥が ズキ________________……… 痛むけれど。 紫央奈は笑った。 苦し紛れではない。 さっきまでの重っ苦しい空気を浄化するほど楽しく、幸せそうで、焦がれた笑顔だ。 あの一件があったおかげで、紫央奈は目覚めてしまった。今では渚の野郎に少し感謝しているくらいだ。 それに気づけたのだから。 笑ったままではっきりと言い切る。 「現実の恋なんて碌な事がねぇ。」 私は二次元に走るぜ。 紫央奈はそこまでしっかりと言い終わってから、家へと帰った。 夜の家事や風呂などは全て終わり、紫央奈はベッドへダイブした。そのままゴロゴロと控えめに左右に転がる。 「あぁ〜〜〜疲れた〜…」 今日はちょっと危険な1日の分類だった。特に遅刻未遂(?)は紫央奈にとって本当に危なかった…。 元彼のことを思い出したことは黙殺するとして。 そんなふうに振り返りながら深呼吸をする。 いつまでも今までのことで気持ちを昂らせていてはいけない。 これからもっとドキドキすることをするのだから。 落ち着いたのを確認して、紫央奈は少し体を起こした。 さぁ。 いざ。 「光る君ーーーーーーーーーッッッッッッッ」 寝る前のお楽しみの時間だ。 にやけてくる頰を抑えつつ枕元にある本を手に取った。 もちろん源氏物語。図書室のやつと同じものだ。借りなくても気にせず読めるよう家用に買った。 上中下のもちろん下巻を開く。夕方の続きを読もう。 誰にも邪魔されない自分だけの幸せの始まりだ。 「〜〜〜〜〜〜ーーーーーッッッッッッッ♡♡♡♡♡」 最高…これぞ至福。 ________さて、うっとりと読み耽っている間に、どうして先ほどあんなことを言ったのか弁解する。 少し遡り、紫央奈が振られたあの日。紫央奈はあのまままっすぐ家に帰り、夜のルーティーンを最小限にしてベッドへと潜り込んだ。 もう誰とも喋りたくなかった。自分の居場所が、世界が、ぐにゃぐにゃと歪んでゆくようだった。 苦しい。 もう嫌だ。 そんなことを考える自分にふと気づきゾッとした。 しかし当たり前なのだ。未だ10代、中学2年生もまだはじめ。未熟な青い春を過ごす少女なのだから、強がったって傷付いているのは明白。 泣いて当然。 溢れて、溢れて、止まらなかった。 結局寝る気にはなれず、渋々眠くなるまでの間と本を開いた。 …そう。 古典を。かぐわしい追憶を閉じ込めたようなそんな世界を。 芙蓉か、牡丹か、はたまた菖蒲? ふわりと花開くように雅で…どろっとしたそんな中身。 読むうちに読むうちにどんどんと引き込まれる。 先ほどまでの痛みなど、とうにかき消えていた。 「…」 紫央奈はその時その本の世界と一体になったような感覚がした。 紫央奈は主人公で、その友人で、恋人でもあり、ヴィランでもあり、第三者でもあった。 何にでもなれるけど、その本人ではない。 けれど、受け入れられている。 不思議な感じだ。 そして気がつくと眠っていた。幸せなままで…。 翌朝目覚めた時には昨日のことなんて些細なものだとすら思えてしまえた。 紫央奈は思った。 「…あれ?」 今までは、物語を読み、自らのそんな恋路を夢見た。憧れていた。 そうして付き合った。しかし、あまたある物語の中のシチュエーションは一つでもあったか? 否、ひとつもない。 現実にはそんなことが実現しない…! そして結局のところ現実には見捨てられたのだ。無駄な傷を受けてしまった。 けれど理想はどうだ。本をひらけば焦がれる世界があり、空想を展開すれば全て思い描いたままに。逆に現実と一緒にするのも失礼ではないか…? 特に古典は現代の人間に媚びていないストーリーが、新鮮で刺激的で優しくて。傷だらけで苦しんでいた紫央奈を必要としてくれて、受け入れてくれて、そこに紫央奈の居場所がある____。 そして二次元は老いない、美しい、裏切ったりしない‼︎ 「これは…‼︎」 真理としか思えなかった‼︎ ……これが、紫央奈が現実の人間関係にあまり心を砕かない理由であり、古典を異常に愛するようになった原因だった。 「はぅ、ふぅぅぅ…♡」 幸せだからこれでいいのだ。今日も本の中の彼らは美しく、優雅な物腰で紫央奈と物語を紡ぐ。 没頭。ずっとこのままでいたい。 が。 「!…っ…」 もう時間だ。流石に寝なくては。 残念な気持ちはあるが、紫央奈は長い長いため息と共に本を閉じた。 「また明日」 布団に潜り込もうとしたその瞬間____ 視界の端で、何かが光った。 「…ッ⁉︎」 反射的にそちらの方を向く。普段なら気にも留めない煌めき。しかし今日はなぜか惹きつけられる。 何故…? 解せない理性とは違い、紫央奈は無意識にベッドを下りそちらへと足を進めた。 目の前には小さな紫央奈のドレッサー、そして…その上の翡翠の二枚貝だった。 「⁉︎」 とろりと、妖しく、滑らかな光。妖精の羽の様な美しい翡翠色。 二枚貝はそんないつもと同じ美しさを持っていた。 ただひとつ、ぱかりとおおきく開いていたことを除いて。