声がしたほうを向くと、そこには美香が立っていた。嘘だ、そんなはずない。だって、美香はあのとき助からなかったはず…。わたしがぽかんとしていると、 「もー、百合ってば、わたしのこと忘れちゃった?」 「百合、元気だった?」 と美香が話しかけてくる。 「…本当に、美香、なの?」 美香はきょとんとした顔で答える。 「じゃあ、逆に本物じゃなかったら何なのさー?」 「えっと…幻とか?」 「百合は少しも変わってないや」 あはは、と笑っている美香にわたしは聞く。 「何でいるの…?」 「だって、心残りがあったんだもの!」 美香はにやにやする。 「…何?」 「きれいな月が見たくって」 「え…?」 美香はにっこり笑って、 「うそうそ、冗談だよー!そんなことは心残りにならないって!」 と話す。 「あの”約束”、忘れてないよね?あれが心残りでさー」 「あの”約束”って…。遊園地のこと?」 「百合、覚えててくれたんだー!嬉しー!そう、遊園地!」 「でも、遊園地って…。行けなくない?」 美香はクスリと笑った。 「いやいや、それが行けるのだよー!こっち来て!」 美香はずんずん、向こうへ歩いていく。わたしも急いで追いかけた。チューリップが咲いているところを抜けて、川を渡って…。そういえば、ここはどこなのだろう。そう思ったとき、美香が急に立ち止まった。わたしは前を見た。そこには、ライトアップされた遊園地が立っていた。 「ほら、今日は貸し切りだよ!たくさんあそぼー!」 わたしは、美香と一緒に、そのライトの光を受けて輝く遊園地に入っていった。 メリーゴーランドに、観覧車。コーヒーカップまである。 「さぁ百合、どこから遊ぶ?早くしないと閉園時間になっちゃうよ~!」 閉園時間なんてあるんかい。 「じゃあ…メリーゴーランド!」 「よし来たっ!どっちが先につくか競争ねー!」 「負けないぞ~!」 それから、たくさんの場所で遊んだ。苦手だったジェットコースターにも乗った。最初こそ気が乗らなかったが、美香が乗りたいと騒ぐからしぶしぶ承知した。でも、乗ってみたら意外と怖くなかった。もしかしたら、美香と一緒だからかもしれない。そんな楽しい時間もあっという間に過ぎてしまった。 “そろそろ、閉園時間です。ご来場、ありがとうございました。” 閉園時間を告げるアナウンスが流れてきた。もう美香と遊べないのか、と少し残念だった。わたし達は、門へ向かう。 「もう終わりかー、楽しかったね、百合!」 美香が満面の笑みで話しかけてくる。 「うん、楽しかった~!」 「…月がきれいだね、百合」 「急にどうしたの、美香?」 「…ううん、何でもない!」 そのあと、二人とも静かになった。相手と別れるのが寂しかったのかもしれない。その沈黙を破ったのは、美香だった。 「ねえねえ百合。今からはなすのはひとり言だから、気にしないでね」 「え…?うん…」 わたしはきょとんとした。急にどうしたのだろうか。 「わたし、初めて見た時から、百合のこと、好きだったんだー」 えっ、と驚くわたしをよそに、美香はどんどん続ける。 「百合の笑顔が眩しかった。ずっと一緒にいたいと思ってた。でも、告白したらきっと、気持ち悪いと思われる。きっと、一緒にいたくないと思われる。勇気が出なくて、告白できなかった。だから、あの日遊園地に行くと決めたときから、初デートだって、舞い上がってたんだ。必ず告白しようって。でも、伝える前に事故にあっちゃった。もう一生、告白することはできない。それが本当の、心残り」 そうだったんだ…。気付かなかった。美香がそんな風に思ってたなんて…。 「気持ち悪くなんか、ない」 「…え?」 「美香のこと、気持ち悪くなんか、ない」 美香はきょとんとしていたが、満面の笑みを浮かべた。 「そっか、ありがとう。それじゃあ、またね」 強い風が吹いた。わたしは思わず目を閉じた。風がやんで、目を開けたら、そこは学校の裏庭だった。美香はいなくなっていた。チューリップも消えていた。白檀の香りだけが残っていた。
文章:@takoyakids